SECONDI
『……やっぱり稲荷崎ってレベル高いですね』
「まぁな!最強の挑戦者やならな!」
『凄く勉強になります』
名前は昨日と同じ、黒須の隣に立ち練習を見つめる。予想通り、というか予想以上に高い練習の質に名前は自然と息を吐き出す。
「ブロック上げるんやったら幅を意識しろ!」
「今のは拾えるやろ!」
「カバー!」
「ナイスキー!」
仲間だからと甘い言葉をかけない選手たちを見て、選手同士はいつでも対等なのだと改めて思い知らされる。烏野でも頭一つ抜けている影山にものを言える人は少ない。その点、稲荷崎はーー
「ツム!!さっきのトス低いわ!!下手くそ!!」
「なんやと!?ならレシーブちゃんと返せや!!なんやあのヘボレシーブは!?」
「あぁ!?」
言い合いを始める2人を黒須と遠くから眺める。
『……変わらないなぁ』
「侑にとっての幸運は治が居った事やろうな」
『確かに。きっと侑1人じゃここまで来れなかったでしょうね』
侑と治が言い合って居るのを見て名前は2人の姿に日向と影山の姿を重ねる。そして烏野の天才にも、叱ってくれる図太さを持った小さな巨人が居てくれて良かったと心の底から思った。
「侑〜!10分休憩や!」
「10分休憩!!」
黒須の声に侑が復唱し、周りが返事をする。そして休憩になるやすぐに侑は名前に駆け寄る。
『休憩なんだから走らない。無駄に疲れるでしょうが』
「こんくらいどうって事ないわ!」
名前は呆れた様に笑いながら、近くにあったスクイズを侑に手渡す。それを受け取り飲むと侑はスクイズを置いて床にあるバレーボールを拾う。
「フッフ、見て驚くなよ?」
『は?』
そう言うと侑はボールを少し高めに上げると落ちてきたボールを手首に乗せる。
「どや!?凄いやろ!」
『……よく、覚えてたね』
それは中学生の時に名前が教えた練習方法だった。あの時は全然出来なかったのに今では高く上げて出来るようになっていた。
「当たり前やん!めっちゃ練習した!」
無邪気なその笑顔に名前は泣き出しそうになった。ずっと侑は名前の事を覚えていてくれていたのだと。憎みながらも想ってくれていたのだと。
そして同時に胸が高鳴っている事にも、気が付いていた。
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