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試合が終わってフーっと息を吐き出す。体に力が入っていたことに気付いて肩をぐっと持ち上げて、フッと力を抜いてストンと肩を落とす。
『……』
改めてあの2人の凄さを感じた。才能に溢れた2人なのだと。………私とは、違う世界の人間なのだと。
「……あの、少しお話いいですか?」
『……え?』
突然の声に驚いて振り返ると女の子が3人立っていて、私の額から冷や汗が1粒たらりと頬を伝った。
*******
「侑くんとはどういう関係なんですか?」
「治くんとも仲ええみたいですよね?」
「この間治くんのスマホのカバーに付箋が入っとったのも貴女が関係しとるんですか?」
『…えっと〜…、』
少女漫画でよくあるやつを体験してしまった。
『…あの、……えっと、』
なんて脳内の中でふざけながらも実際の所は冷や汗ダラダラで瞳はキョロキョロと左右に揺れ動く。
「…まさか付き合うとるとか、言わんですよね?」
『っ、』
涙を浮かべてそういう彼女を見て、息が詰まる。あぁ、この子達は本当に彼らの事が好きなんだ。彼らの為に可愛くなって、彼らの為に努力をしているんだ。
「…お願いですから、私たちから侑くんと治くんを取らないで下さい」
『…………』
これは漫画の世界でも、私は少女漫画の主人公でもない。漫画のヒーローの様に侑くんや治くんが助けに来てくれる事は、無い。
『……付き合って、無いよ』
「……」
「侑くんと治くんが貴女の事好きだってことですか!?」
「2人のことが好きじゃないなら、一緒に居るのをやめてください…、」
『……』
「…2人に、特別扱いされて、その場所に胡座をかいてるんじゃないんですか?」
『っ、』
図星だと思った。2人みたいな顔の整っていて、スタイルもいい2人に特別扱いをされたら、情だって湧くし、その位置に胡座をかいてしまう。
『………そう、だね』
私は、2人の事が恋愛感情で好きかと聞かれたら、きっと答えられない。けれどこの子達は真っ直ぐに好きだと答えられるのだろう。
なのに、私の様な奴がこの子達が座りたい椅子に胡座をかいて座っている。なんて腹立たしく、妬ましいのだろうか。
『……私は、』
来て欲しい。私がこの言葉を言ってしまう前に、
『…わたし、は』
あの2人に、会いたい。助けに来て欲しい、
『わ、たしは、』
助け、なんて可笑しい。この子達は正しい事を言っているだけ。好きな人には自分を見て欲しい。至極真っ当な事だ。私が被害者面をするのはお門違いだ。
『……わたしは、』
手のひらを握って、グッと唇を噛んで瞳をギュッと閉じて息を吐き出す。
そして震える唇を開く。
『私はもう、2人とは会わない』
やっぱりここは漫画の世界でも無ければ、
少女漫画の世界でも無い。
いや、ただ私がヒロインにはなれないだけなのかもしれない。
どんなに会いたいと思っても、会えないのだから。
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