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「今度の土曜な!稲荷崎で練習試合あんねん!」
「名前さん見に来れます?」
飽きずに私の家に来てご飯を食べ終わりソファでまったりしていると2人が不意に私にそう言った。
『……用事あるから無理かも』
「なんの用事?俺らより大事なん?」
「俺ら以上に大事な用事ってあるんですか?まさか男とか言わないですよね?」
『………溜まってたゲームやる』
「なら俺らの方が大事やな!」
「ちなみに午後からなんで」
『えぇ〜…』
「来なかったら絶交やからな!」
「3日間口聞きませんから」
そんな約束を無理矢理取り付けられて、私は溜息を吐き出して泣く泣く承諾をした。
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『……場違い感半端ない』
体育館に着いて2階のギャラリーに行くとそこは女の子で溢れていた。土曜日とあって私服の子も多いおかげで服装では目立たなかったが年齢の違いをありありと感じた。
『……………』
帰ろうとも思ったが、帰った方が後々あの双子の機嫌を取るのが面倒な事を知っている為、何とか留まる。
『……あ、』
ギャラリーから下を覗くと、派手な髪色の2人はすぐに見つかった。
「……あ」
「………お」
2人も私に気付いたのか、侑くんは両手を千切れんばかりに振って、治くんは片手を上げて左右に振ってくれた。私も振り返そうと片腕に力を込めた時、
「キャー!侑くんが手振ってくれた〜!」
「治くんもや!!」
『………』
私に振られたものでは無いと気付いて、恥ずかしくなり赤くなった顔を隠すように視線を下に逸らして自分の足元を見つめる。
「………名前〜!!無視すんなや!!」
『ーっ!?』
急に大声で名前を呼ばれて反射的に顔を上げると、不機嫌そうな顔をした2人が私を睨んでいた。
「…名前?」
「誰やそれ?」
『え、…ぁ、』
低くなった女の子達の声が聞こえて、キョロキョロと視線を泳がせていると、不意に侑くんと治くんがまた両手を左右に振るのが視界の端で見えた。
『…っ、ぁ、』
私はどうしようとギャラリーの柵をグッと握る。するとまた大声で侑くんに怒鳴られる。
「…無視すんな言うとるやろ!!」
『はい!!』
侑くんのドスの効いた声と隣に静かに私を睨み上げている治くんが怖くて返事をしてピシリと背筋を伸ばして小さく手を振ると2人は満足そうに頬を緩ませ笑った。
『………』
そして私は近くに居る女の子達に睨まれた。
凄く怖い。
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体育館に破裂音も近い様な音が響いて、その音の元凶を辿ると治くんが打ったスパイクで私は顔を青ざめさせた。
『………リアル、ゴリラ』
「……」
『…ヒィッ!』
私が小さく呟くと、同時に治くんが振り返り、聞かれたのかと小さく悲鳴を上げると、治くんはじっと私を見たまま動かなかった。
『……?』
私が首を傾げて何となく微笑むと治くんは少し笑ってポジションに戻った。私はただ首を傾げる事しか出来なかった。
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侑くんのサーブが回ってくると、侑くんは私を見上げてふにゃりと笑った。
『っ、』
その顔が可愛くて心臓を抑えるとホイッスルの音が響き、慌てて視線を戻す。
「……っ、」
侑くんがサーブを打つと強烈な音を響かせながら相手コートに落ちた。
『……凄い』
「……」
『うぉっ、』
私が呆然として無意識にそう呟くと侑がガッと後ろを振り返って侑くんと治くんは地獄耳なのかな?と疑ってしまった。
『……?』
「……」
すると侑くんは私にブンブンと手を振って来た。私が振り返すと、またボールを受け取りサーブを打って点を決めていた。
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