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「……」
『……侑くん?どうしたの?』
「……」
私の家に来るなり私にガシリと抱きついて無言のまま離れなくなった侑くんに声をかけても何も言わずにただギュッと腕に力が入れられる。
「……」
「……」
いつもならキレるか殴るかの治くんも侑くんに何も言わずにただ私の隣に座って私の手を握っているだけだった。
『……ふぅ…、』
「っ…、」
私が息を吐くと侑くんはビクリと体を揺らした。座っている私を横から抱きついて首筋に顔を埋められたまま数十分が立っていて、流石に私もそろそろ体勢が辛くなってきた。
『……侑くん?学校で何かあった?』
「……学校で、」
『うん』
小さな声で弱々しく語り始めた侑くんに耳を澄ますと、手を繋いでいる治くんの手に少しだけ力が加えられた。
「……学校で、女子から菓子貰ってん」
『へぇ〜、凄いじゃん』
「………その菓子に、髪の毛入っとった」
『……………それは、あの…、ご愁傷様』
「………」
本当にそんな事あるんだ〜と笑いたかったが、本当に辛そうな侑くんを見て自体の深刻さを感じて口を閉じた。チラリと治くんを見ると視線が交わった。
『……治くんは?平気だったの?』
「…平気やったけど、ツムが貰た菓子見てもうた。見ただけで吐き気したのに1口食うてしもうたツムはもっとしんどいやろうから…、今日だけは名前さんに触っても許す」
『……なるほど』
つまり、治くんは髪の毛入りのお菓子を見てしまったと。そして侑くんは食べてしまったと言うことか。
「……最悪や。部活も吐き気が止まらんくて出来んかったし」
「…俺も部活参加したけど、調子出んかった」
『……吐き気はもう平気?』
「……名前の匂い嗅いだら少しマシになった」
『私はアロマかな?』
というか匂いを嗅がないで欲しい。私だって仕事終わりなんだから。
『……今日だけだからね』
そう言って私が体を捻って正面を向いて侑くんの背中に片手を回すと、侑くんは更に腕に力を込めて私を抱きしめた。治くんは手を離す気が無いのかギュッと握られたままで離せなかったから体勢は辛かったけど2人の元気の無さには変えられないと必死に腰を心配しながら侑くんの背中をポンポンとリズム良く叩く。
「……名前、」
『はいはい、私はここですよ〜』
「…今日だけやからな。ツム」
それからまた数十分そのままで居たせいで腰は悲鳴を上げるし、足は辛いしで最悪だったけど、帰る頃には元気になった2人を見て、まぁ良いか、と自分の腰を労わるように摩った。
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