M
『………』
鍵を開けて玄関に入っても2人は靴も脱がずに立ち尽くしていた。
「……さっきの、ほんまにただの後輩か?」
『…後輩だよ』
「…返事ってなんの事ですか。あいつに告白されたん?」
『………』
私が何も言わずに居ると2人はグッと唇を噛んだ。
「……俺らの事、嫌になったか?」
「…せやから、ここに来たらあかんの?」
『……』
ここで拒絶をしなければいけない。嫌いになったからと、そう言えばきっとこの子達は本当にもう二度とここには来ない。
『……きらいに、』
「…名前、」
『っ、』
侑くんに低く名前を呼ばれて体が手のひらがピクリと揺れる。
「…ちゃんと考えてものは言った方がええよ」
「………名前さん、」
『な、に』
治くんに名前を呼ばれて視線を上げると、真っ直ぐと2人は私を見つめていた。
「…名前さんがほんまに俺らの事が嫌になって、ここに来て欲しくないなら俺らはもう二度と来ません」
『ーっ、』
「…それを踏まえて、もう一度だけ聞きます」
「俺らの事、嫌いになったんか?」
『わ、たしは、』
喉が張り付いた様に声が出ない。たった一言、10文字にも満たない言葉を言うだけなのに、声は出ない。
『……ぁ、』
「…泣かんといて、」
「泣かないでください、」
2人に言われて、初めて自分が泣いていることに気付いた。2人は恐る恐る、私の頬に触れる。右頬を治くんの左手に包まれて、左頬を侑くんの右手で包まれる。2人の手の暖かさにまた涙が溢れる。
『っ、ごめっ、ごめんなさっ、』
「なんで謝るん?」
「名前さんは悪くないやろ」
『私がっ、わたしが、悪いのっ、』
私がボロボロと涙を流して顔を歪めると、2人までも泣きそうな顔をして顔を歪めるから、それでまた涙が溢れる。
『わたしはっ、ふたりとはっ、一緒に、居ちゃいけないっ、』
「なんで?なんでそうなるん?」
「俺らは、俺らが名前さんと一緒に居りたいから居るんです」
『私っ、なんかと居たらっ、2人はダメになるっ、』
「…………俺らは好きになる奴を自分で選んだらあかんの?」
「……名前さんは、俺らと居りたくないんですか?」
『わたしはっ、』
「名前の気持ちを聞きたいねん。他人がどうやとかじゃなくて、」
「名前さんがどうしたいかを聞きたいんです」
手のひらを握るとピリッと痛みが走った。短い感覚の息が唇の端から漏れる。きっと今の私の顔は涙と鼻水で汚いはずなのに2人は私の頬から手を退かそうとはしなかった。
← ∵ →
戻る