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「今日会社の飲み会あるんですけど行きません?」
『……あー…、』
後輩の男の子に声をかけられて悩むと、後輩は少し悲しそうに眉を下げた。その表情に少しだけ罪悪感が募って渋々承諾をする。
『……行こうかな、』
「本当ですか!?楽しみにしてます!」
年下に甘くなってしまうのはあの2人の影響なのかな、と小さく苦笑を浮かべた。
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「苗字さん?大丈夫ですか?」
『……ごめん、吐きそう』
「トイレ行きます?」
『平気…、1人で行ってくる』
そう言って後輩に断りを入れて席を立ち、御手洗に向かう。そこでふと、自分はこんなにお酒に弱かったか?と疑問が生まれる。
『……そっか、』
あの2人が家に来るようになってから飲み会は断っていたし、お酒を呑んだのが久しぶりで酔いの回りが早いのだと気付く。
『………ふぅ、』
トイレの水道に手を付いて息を吐き出す。顔を見たらクマが酷く、吐き気のせいか顔色も悪い。このまま帰ってしまおうかと考えが過ぎる。
「あっ、苗字さん!大丈夫でした?」
『うん…、大丈夫、』
「…俺、苗字さんとゆっくり話してみたくて」
『……』
微笑みながらそんな事を言われたら帰れるに帰れなくなり、静かに後輩の隣に腰を下ろす。
「…俺、転勤してきて周りがみんな神戸弁で内心凄く不安で…、同じ日本語でもニュアンスとか違うじゃないですか。それで慌ててる時に苗字さんが俺に話来てくれて…、凄く安心したんです」
『……私も、転勤してきた時は凄く不安だったな…。なんか突然海外に飛ばされた位の衝撃だった覚えがある』
「そう!そうなんです!最初は神戸弁かっこいいな〜、とか可愛いな〜って思ってたけど段々と自分だけ違うのが苦しくてなっちゃって」
『……ふふっ、懐かしいなぁ』
私が昔を思い出して小さく笑うと、後輩も何故か嬉しそうに笑った。
「…俺、苗字さんの笑った顔凄い好きです」
『………え、』
そう言った後輩の頬は赤く染っていて、それがお酒のせいでは無いことくらい分かった。
『……』
この人は年下だけどしっかりしていて、仕事も真面目にこなす。周りをよく見ているし、気の使える子だ。この子と付き合えばきっと幸せになれる。自分と同じ歩幅で歩いてくれる。自分とは違うのだと考える必要も無い。
なのにどうして、無性にあの2人に会いたくなるのだろう。
「………すみません、困らせるつもりじゃ無かったんですけど…」
『え、いや、困ってるわけじゃ…、』
「とにかく今日は飲みましょう!……って苗字さんは無理しないでください」
『……ううん、平気、飲もっか』
そう言って私は残っていた目の前のお酒に手を伸ばした。
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