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『……』
「苗字さん?体調悪い?大丈夫?」
『あっ、大丈夫、です。すみません』
あの日から数日が経った。その間も毎日2人は私の家に来ていた。けれど私の会社はホワイト企業で18時には家に居る。だから玄関の鍵を閉めて2人がいくらチャイムを押そうと私が出る事は無かった。
『……』
仕事から帰って、ご飯を作って眠る。それだけを繰り返す日々が続いた。
『……あ、なんも無い』
冷蔵庫を開けるとほとんど何も無くて何を作ろうか迷った。そこでふと気付く。
『……なんで、料理なんてしてんだろ』
元々私はズボラな人間で、夜ご飯はいつもカップラーメンだった。それがいつからか、2人が来るようになってから料理をする様になった。
最初は料理本を見ながら作って、失敗して。でも2人は美味しそうに食べるから、必死に練習した。最近は本を見なくても作れる様になって、自分でも自信を持って美味しいご飯を作れる様になった。
『………』
久しぶりに電気ポットを出してお湯を沸かす。懐かしい感覚に肩の力がフッと抜ける。
やっと料理をしなくて済む。面倒な事をしなくて済む。
あの2人の為に美味しいご飯を作らないとというプレッシャーを感じる必要も無い。
『………』
あぁ、清々した。
『……』
やっと解放された。
『………っ、』
私は1人が好きなの。インドアでゲームして、
『………ぅ、っ、』
グッズを集めて、それを部屋に飾ってたのにあの2人のせいで最近はグッズ集めに出かけられなくなった。
『ぁ……〜っ、』
これでやっと、元の生活に戻れたのに。いつも2人に帰れ帰れと言って、やっと来なくなった。願ったり叶ったりじゃん。
『ぁ、っ、……ふっ、』
なのになんで、私はこんなにも苦しくて、泣いているの。
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