06
『また来ちゃった』
「…お前な」
『またおにぎり作ってよ。ちゃんと代金は払うからさ〜』
「…晩飯の残りや。金は要らん」
俺は度々、宮さんの家を訪れるようになった。最初は閉店の時間まで居て、そのまま泊めてもらって、その後はわざと物を忘れたフリをして泊まりに来た。
『は〜…、落ち着く〜』
「濡れた髪のままベッドに乗んな」
そう言って宮さんはタオルを持ってきて俺の髪を拭いてくれる。
『…つくづく宮さんは甘いね』
「は?」
『俺さ、今実家に居んの』
「へぇ」
『彼氏…、元彼と住んでた部屋はもう解約して、家族と住んでる』
「その方がええやろ」
『……俺にとってはそうでも無い』
俺が小さく呟くと宮さんはゆっくりと手を止めた。
『…俺、家族から疎まれてんの。ゲイだから』
「なんで、」
『そう簡単に受け入れられるもんじゃ無いじゃん。息子がゲイだなんてさ。しかも俺、中学で問題起こしててさ、喧嘩とかじゃなくて、ゲイなのがバレて、張り紙貼られたり、変な噂立てられたりとか』
「……」
『…だからわざわざ引っ越して、知り合いが1人も居ないここに居んの』
「元々は何処に住んどったん?」
『関東の方。だから俺は方言無いの』
俺がフッと笑うと宮さんはパサリとタオルを俺の頭から退かした。
『…だから、家に居るよりここに居る方が落ち着く』
俺は体を捻って宮さんと向かい合ってパッと笑みを浮かべる。
『俺が邪魔だったり迷惑だったら言ってね。ちゃんと出て行くから』
「……」
『んじゃ寝ようぜ』
口を開こうとした宮さんを遮る様にそう言って布団に潜ると、宮さんも少しして布団に潜った。
『……』
自分で言っておきながら、俺は、
臆病者だ
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