01
「こんな所で何しとん?」
『……』
「雪降ってきたし寒いやろ?」
『…お兄さん誰?』
「俺はそこでおにぎり屋やってる者やけど」
『…へぇ』
「んで?ここで何しとん?」
公園のベンチに俺が腰掛けていると、黒いキャップを被ったイケメンのお兄さんに話しかけられた。
「寒ないの?」
『……寒い』
「やったら帰った方がええで。風邪ひくぞ」
『……』
俺が黙るとお兄さんは困った様に息を吐き出した。
「帰れん訳でもあんの?」
『……特に、無いけど』
「なら帰った方がええよ」
『……今からゲイバー行く予定だから』
「………ゲイバー?」
俺が答えるとお兄さんは目を見開いた。そしてきっと軽蔑した目を向けるんだ。
「…お前未成年やろ?」
『……違うけど』
「未成年は行ったらあかんのちゃう?」
『…だから未成年じゃないって』
「……とにかく今日は帰った方がええ」
『……引かないの?』
「何が?」
俺が聞くとお兄さんは表情を変えることなく首を傾げた。
『俺がゲイバーに行く事』
「……お前冷やかしに行くんか?」
『そんなわけないだろ』
「なら別にええんちゃう?」
『…は、』
俺が驚いて顔を上げるとコツリと額を軽く小突かれた。
「けど、未成年はバー自体行ったらあかん」
『………』
そう言ってお兄さんは口元をほんの少しだけ緩めた。
『……お兄さん、名前は?』
「は?ナンパか?」
『違う』
「…そこのおにぎり屋の宮」
『…宮さん』
「お前は?」
『…俺は、名前、』
「名前な。とりあえず今日は寒いから帰れ」
これが俺と宮さんの出会いだった。
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