09
「……あれ?苗字?」
「わっ、本当に苗字じゃん」
『…は?………げっ、』
俺が公園のベンチに腰掛けていると名前が呼ばれて顔を上げると、中学で一緒だった奴らが居た。
『……なんで
神戸に居んの』
「旅行」
『……ちっ、』
「苗字は?なんで公園なんかに1人で居んの?…あ、もしかして売春?」
「……」
『………違ぇよ』
2人組の内、1人は中学で少しだけ仲が良かった。けれど、俺がゲイだとバレた日から一言も話してない。今も忘れられない、あの瞳。俺を蔑む、あの瞳。
『……』
「また男引っ掛けんの?」
「苗字、」
名前を呼ばれるけど、怖くて顔が上げられない。もう1人の様に軽口を叩いてくれた方が楽だったのに。
「……苗字、」
「名前!!」
『……宮さん、』
手を伸ばされた瞬間、別の声に名前を呼ばれて顔を上げると宮さんが立っていた。
「…名前、帰るで」
『……なんで、ここに、』
「うわっ、マジで男じゃん!きっしょ!」
『っ、違うから!俺が勝手に付きまとってるだけだから!この人は関係無い!』
俺が立ち上がって必死に言うと2人は驚いた様に目を見開いていた。
『……この人は、本当に普通の人だから、』
「……苗字、」
『……早く、観光行ったら』
「…俺、ずっと苗字に」
『…もう、いいから、』
きっと、謝ろうとしてくれたんだろう。けれど、俺は拒絶した。
『……』
俺が俯いて唇を噛むと、不意に視界が暗くなった。
「神戸に観光に来たん?ならあっちの通りの方がええよ」
『……み、やさ、』
「楽しんでな」
顔を上げると宮さんが俺の前に背を向ける様に立っていて、あぁ、またこの人に助けられたんだと気づいた。
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