002
『………ん、』
名前が目を覚ますと見知らぬ天井が見えてベタだな。と頭で言葉を発する。
「……おっ、起きたな?」
『…………みや、……、』
「あつむな」
カーテンが少し開かれて顔を覗かせるように宮侑がひょっこり顔を出す。名前は眉にシワを寄せる。
「ごめんな〜?サムの奴が悪いねんけど」
『……』
謝りながらも全く誠意を感じない侑の態度に名前は苛立つ。こっちは階段から落とされ、ましてや侑の下敷きにされたのだ。
「でも良かったわ〜。あんたが居てくれたおかげで俺は怪我しなずに済んだわ〜」
『…………は?』
「俺が怪我したらバレー部困るしな〜。ほんま助かったわ〜」
名前は目を見開き呆然とするが、侑は気にした様子は無く、ヘラヘラと笑いながら片手を後頭部に当てる。
「落ちた時凄い音したけど平気やった?」
『…っ、』
侑は名前の座っているベットに近づき、顔を覗き込む。
「落ちた時になんかバキッって音したんやけど…」
『…………っ!?』
名前は慌ててズボンの後ろに付いているポケットに入っているスマホを確認する。
「あ〜、その音やったんか。画面バキバキやな」
『………』
名前は顔を真っ青にして絶望する。このスマホには色々なゲームのデータが詰まっているのだ。無課金縛りでレアアイテムを集めまくったゲームから課金して本気で取り組んでいたゲームまでのデータが。
『…………』
「スマホで良かったわ。俺にも怪我無かったしな」
『……〜っ!!』
「っぐぁっ!?」
そう言って笑いながらベットの横にある椅子に座った侑の腹に蹴りを入れると侑は突然の事で椅子から転げ落ちて地面に尻もちを着く。
『ふざけんな!!俺がどれだけゲームに時間注ぎ込んで来たのかお前に分かるのか!?お前の自分は大切にされて当然っていう態度も腹立つんだよ!!しかも人の事階段から落としておいて何ヘラヘラしてんだ!!元からお前は性格クソだろうと思ってたけど本当にクソで最悪だな!!お前みたいなクソ野郎はもれなく死ね!!』
「……」
「苗字くん?目が覚めたの?階段から落ちたって聞いたけど大丈夫?」
『っ、だ、大丈夫です、』
戻ってきた保健医の先生の声に名前はビクリと体を揺らして慌てて返事をする。
「……おまえ」
『っ、』
侑の声に先生の声が聞こえた時とは比にならない程体をびくつかせる。そろりと侑に視線を送ると侑はニッコリと笑っていた。
「意外と声出るんやな。しかも口悪いし」
『〜っ、』
「サム以外に蹴り入れられたの初めてやわ」
侑は立ち上がりズボンを叩くと名前を見下ろす。
「……意外やわ〜」
そう言った侑の目は笑っていなかった。
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