001
名前が入学した稲荷崎高校には有名な双子がいる。しかも同じ学年に。そしてその双子の片割れが同じクラスにいる。
「あかん!教科書忘れた!」
「またか侑〜!」
「また治に借りるんか〜?」
その人気者である宮の片割れが一言発せば周りはそれに反応して2.3.4と言葉を返す。
クラスで目立たない様に生活している名前からすればうるさくて仕方がなかった。
『……』
休み時間に名前がゲームをしていると横にしていたスマホの上画面に通知が現れる。差出人を確認して名前は静かに席を立ち上がり、教室を出る、
『…………信介』
「…あぁ、名前か」
『名前かって信介が呼んだんだろ』
「弁当渡すの忘れとった」
『……ありがとう』
名前は北信介と幼なじみだった。けれどそれは生まれた時から、とかではなく名前は小学生の時に兵庫に引っ越して来た。そして偶然北の隣の家だった。ひとつしか違わない2人は自然と遊ぶようになった。
『婆ちゃんにお礼いっといて』
「作ってるの俺やけどな」
『………』
北はくすりと笑うと名前の頭を撫でる。名前は鬱陶しそうにしながらも手を退かす事は無く受け入れる。
『…晩飯、食いに行っていい?』
「ええけど。俺は練習で遅なるで?」
『先に食ってる』
「まぁそれがええな」
『………普通は待ってろって言うだろ』
「……?なんで?腹減ったら食った方がええやろ」
『…まぁ、お前はそう言うよな』
名前はふっと笑って思い出したように声を上げる。
『やべっ、チャイム鳴る!それじゃあ戻るな』
「授業中に寝るなよ」
『……』
「名前」
『……ゼ、ゼンショします』
名前は逃げる様に視線を逸らし、廊下を走って教室を目指す。すると後ろから北の廊下を走るな、と注意が聞こえたが名前は聞こえないふりをした。
名前が教室を目指し階段を駆け上がっていると声が聞こえた。
「ふざけんなや!!」
「お前が俺のプリン食うたんやろ!!」
「サムが名前書いとらんのが悪いんやろ!」
「弁当の包みに名前書くか!!」
「っ、あほ!!」
名前が侑の慌てた様な声に驚いて顔を上げると名前の目の前が真っ暗になってそこからの記憶が無かった。
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