016


侑は親指でスリスリと名前の頬を撫でる。


「ちゃんと想像してな?」

『な、なにを、』

「俺が苗字やない、誰かの手を握って、頬を撫でてるって所」

『っ、』

「んで、こうやって優しく手を握って、」

『ぁ、』

「……こうやって、」





侑は顔を少し傾けて瞳を閉じる。名前は自然と瞳を閉じると、思っていた感触が訪れずに睫毛を震わせながらゆっくりと瞳を開くと侑が真っ直ぐに名前を見つめていた。



「……こうやって、キスをしてる所」

『ぁ……、』






名前は侑が他の人に優しく触れて、唇を重ねる姿を想像して目を見開き唇を震わせる。



「………苗字は俺が他の奴にしてもええの?」

『っ、』

「……俺が他の奴とキスしてもええの?触れてもええの?」

『〜っ、』




名前は唇を震わせて、小さく口を開いては閉じてを繰り返す。その間も侑は何も言わずじっと名前を見つめる。




『っ、ぁ、』

「言わんと分からんよ」

『ぃ、』

「……」

『い、いや、だ、』

「……なんで?」

『ぉ、おれ、が、』

「……」


『お、れが、宮の、こと、す、好き、だから、』

「………ちゃんと言えるやん」





侑は嬉しそうに頬を緩めて微笑むと、優しく唇を重ねる。




「苗字が俺と付き合うてくれるなら、俺は苗字にしかキスせぇへんし、こんな風に触れへんよ。どうする?」

『っ、』




侑は目を細めて、とろりと甘さを宿した瞳で名前を射抜く。




『なっ、なんでっ、俺にっ、全部言わせんだよっ、』

「俺はちゃんと気持ち伝えたやろ?苗字が本気にせぇへんかっただけで」

『〜っ、』

「言うてや。良い返事しか返って来ぉへんよ」





そう言って侑は名前の前髪を持ち上げると額にキスを落とす。



『付き合わ、なくても、良い、』

「…はァ?」

『けど、俺だけに、して、ほしい、キス、するのも、優しく、触る、のも、』

「……強欲やなァ」




侑はフッと笑うと、繋がれた手を1度解いて、指を絡めとる。そして名前の髪を耳にかけるとそのまま触れるだけのキスを落とす。



「…俺と付き合うてや」





侑の言葉に小さく頷くと侑は繋がれた手をキュッと握る。その手に、名前も応える様に弱い力で精一杯、握り返した。






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