015
「名前、寝不足か?」
『…え?』
「クマ凄いで」
『…あー、ちょっとゲームし過ぎた』
「ゲームは1日1時間や言うとるやろ」
『分かった、分かったって。ごめん』
北は名前の態度に納得していないのか眉を寄せる。そんな北に気付き名前は慌てて北に声をかける。
『じゃ、じゃあ俺、こっちだから!じゃあな!』
下駄箱に着き、名前は慌てて北に挨拶をして別れると、フッと息を吐き出す。
『………』
ここ数日、名前は眠れていなかった。原因は言わずもがな侑だ。あんなキスをしてから侑は名前に話しかける所か、目すら合わせなかった。名前はそんな侑の態度に苛立っていた。
『………』
名前が教室に着くと、侑はもう来ていてクラスの女子と楽しそうに話をしていた。
「サムより俺の方がかっこええやろ?」
「え〜、自分で言っちゃうところがダメやん」
「はぁ〜?そこも含めて俺のええ所やわ!」
クラスに響き渡る笑い声に名前は唇を噛み締める。
『……』
名前は拳を握り締めると机に置いたはずのリュックをもう一度持ち上げて教室を出て行く。
「………」
「あつむ〜?どうしたん?」
「なんでもないわ〜。で?なんやったっけ?」
******
『クソッ、クソクソッ、なんでこんなに俺がイライラしないといけねぇんだよ!』
名前は体育館裏にあるベンチに腰掛けると貧乏揺すりをして苛立ちを露わにする。
『元からあいつのヘラヘラして人を振り回す態度が気に食わねぇ!腹の中では何考えてんのか良く分からねぇし!気持ち悪ぃ!なんで俺があいつのせいでこんなに気分悪くならないといけねぇんだよ!!』
名前がギリッと奥歯を噛み締めると不意に影に覆われて顔を上げる。
「こんな所で何しとん?」
『………』
侑はニコニコと笑みを浮かべて名前の隣に腰を下ろすと、首を傾げた。
「んで?ここで何しとんの?」
『…お前に関係無いだろ』
「え〜!そんな冷たい事言わんといてや〜」
『っ、』
芝居がかった言い方に名前は奥歯をギリッと1度強く噛み締めるとガタリと勢い良く立ち上がり侑を睨み付ける。
『何なんだよお前!!人の事振り回しやがって!!』
「なんの事か分からんわ〜」
『色んな奴にヘラヘラヘラヘラしやがって!気持ち悪ぃんだよ!!』
「酷いな〜」
『ヘラヘラしてる割に目は笑って無ぇし!本当に気持ち悪ぃ!!しつこく話しかけて来ると思ったら急にピタリと止めるし!!』
「……」
『俺はお前のオモチャじゃ無ぇ!!キスまでしやがって!からかってるつもりかよ!!』
「……」
『俺はお前のせいで寝不足だし!ゲームはミスるし!イライラするし!!お前のせいで最悪だ!!』
「…………なぁ、」
『な、なんだよ、…っ、は、離せっ、』
侑は名前の手を掴むと優しく握り、名前を見上げる。
「それ、俺の事好きって言うてる様なもんやない?」
『………………………は?』
「俺とキスしてから俺の事忘れられんのやろ?俺が他の奴と話してるのもムカついとるんやろ?そんなん俺の事好きやん」
『ちっ、ちがっ、違う!』
「なら、俺が他の奴とキスしてもええの?」
『っ、』
侑は立ち上がり、手は繋いだままもう片手を名前の頬に滑らせる。
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