011
「あっ!苗字やん!おはよ〜!」
『えっ、あ、お、おはよ、』
昨日の事があったのに普通に振る舞う侑に名前は酷く困惑した。侑は名前に挨拶をすると他の生徒の所へと行ってしまった。
『……』
名前は違和感を覚えながら席につき、スマホのロックを解除してゲームを始める。するとトントンと机の端を誰かに指先で数回叩かれ名前はゆっくりと顔を上げる。
「次移動やで?」
『…宮、』
「みんな移動したで、俺らも行こうや」
『………ありがとう』
名前は席から立ち上がり侑について行くと不意に名前を呼ばれ顔を上げる。
「苗字」
『なんだ、……何すんだ』
顔を上げた名前の顎を軽く掬い、唇を重ねた侑は離した自分の唇をペロリと舌なめずりをすると何もなかったかの様に会話を続ける。
「そういえば今日体育あったな」
『………………お前、』
名前は眉を寄せて侑を睨みあげると侑は首を傾げて口を楽しそうに歪める。
『……お前がゲイだって言いふらしてやろうか』
「好きにしたらええよ。広まったら広まったで苗字の事落としやすくなるしな」
『……』
「あ〜ぁ、そんなに唇噛んだら傷ついてまうやろ」
『触んなっ!』
名前の顔に手を伸ばした侑の手を名前がバシりと叩き弾くと侑は驚いた様に目を見開き固まった。
『お前みたいなヘラヘラしてる奴が俺は嫌いなんだよ!人の事見下しやがって!運動出来たら偉いのかよ!顔が良いのがそんなに偉いのか!?確かにお前は凄い奴なんだろうけど俺には関係無い!お前が近くに居ると俺まで目立つんだよ!!俺は目立ちたく無い!それにお前の事が嫌いだ!それが分かったら俺に関わってくんな!!』
「………」
『はあっ、はっ、』
名前は息を荒らげながら言い切ると、侑はわざとらしく溜息を吐くと名前に背を向ける。
「はいはい。分かった。もうお前には関わらん。」
『………』
「今まですまんかったわ」
『………』
そう言って1歩踏み出した侑に名前は安心してフッと息を吐く。すると侑は首だけで振り返り名前を見て笑みを浮かべる。
「な〜んて言うと思うたか?」
『……は、』
気が付いた時には唇が重ねられていた。
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