食べたものを吸収して自分の一部にするのは人間だけではない。

ヒトも、鳥も、犬も、花も、叶にしてもそれは同じで、口に入れたものは捕食者の一部になる。だから叶はそれを、なんのためらいもなく自らの口へと運んだ。


「・・・」

左の手のひらに溢れるばかりに詰め込んだ、ビー玉より少しちいさな美しい青瑪瑙をひとつぶだけ口に入れ、叶はほんの一瞬動きを止める。想像していたよりひやりとして、硬い。つるりとした舌触りに続いて重量のある球が喉を通過した。ごくりと音をたてて飲み下す。呼吸が一旦閉じて、すぐにまた楽になる。腹のなかにころりと石が落ちる様を想像して胸が高鳴るのを感じた。


光を内包する石は叶の手のなかで美しくきらめいて、石同士がぶつかって鳴る音すら涼やかだった。この美しい石は今、私のなかにある。彼のアヲよりその輝きはずっと僅かなものだけれど、それでもこの綺麗なものが私のなかにあるのだと思うと口許が緩んで、それからもっと食べたらもっと綺麗になると石が積み重なるのを想像しまたひとつ摘まんで口にいれた。その動作は先程よりも性急だったかもしれない。くるしいな、と思ったのはさっきよりも強かったから。


綺麗なものが好きだ。ひとは皆きれいなもので出来ているけれど時枝はなかでもとても綺麗だと常々思うし、そんな彼を愛しく思う。だから叶は綺麗なものを取り込みたかった。綺麗なものを好きだと思うのはきっと自分だけではないので、時枝もきっとそうだろう。濃い宝石は美しい。だからそれを自分のものにしたらきっと、時枝は私を好きになる。

考えれば考えるほどその考えは良いものに思えて叶はきらきらとした石を愛しげに見つめる。綺麗だなと呟いて私も時枝にそう思って貰えるのだろうかと夢想する。そうだったらいい。すきといわれるのは、うれしい。

不意に名前を呼ばれたくなる。先生、と時枝の声で呼んでほしくてまだ帰らないとわかっていながら玄関を見る。はやく帰れば良い。時枝が帰ってきたらお茶を入れよう。それから、私が好きかときいてみよう。きっと好きだといってくれるから私も好きだといって、それからキスもしたいと思う。

でもそれまでにこれを食べてしまわなければ。手の中に残った石はあと6つ。全部食べれば腹のなかで宝石箱になるだろう。きらきら、きらきら。


「いいな。きっと、とても綺麗だ」


はやく見せたいと、叶はまた幸せそうに光を食べる。






神様のなみだ








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