しろいしろいと思っていた髪は、実際に手にとって見れば想像していたよりも金に近い色だった。
クリームよりも淡い金をもっともっと溶かしたような髪は男のくせに長くて光を集めて取り込んでいる。加えて指ざわりのよさにも眉間にしわが寄った。女の髪かよとこの間ともに撮影した女優の染髪を繰り返し傷んだ髪を思い出した自分にまたげえと気持ちが悪くなり顔を顰めるとその金を掴んだ手にも力が入って、作り物のような顔をした男はおいと不快そうに声を低めた。

「さっさとしろ、いつまで掴んでいるつもりだ」

地肌を引っ張られるのに合わせて少し頭を傾けながら蘭丸を振り返ったカミュは男の手にある金属を顎で示す。蘭丸の手には銀の鋏が握られていた。それはカミュが先程蘭丸に押し付けたもので、髪を切るための道具であった。切れと一言言いつけて悠々と椅子に腰掛ける男は今はすっかり文庫本を手に活字へと目を滑らせていた。蘭丸はこれまで使ったことのない鋏をしゃきんしゃきんと何度か鳴らしてみる。髪を切ったことがあるのは自分のを、昔に普通の鋏を使ってだけだ。気に入らない相手であろうとその髪が仕事に関わるのを知っている。しかしどうしたものかと身の振り方を思案するのもまたこの貴族が仕事に関してうまくないことをやらないとも知っているからだ。けれども、少しの逡巡の末面倒くせえと思い始めた頃に陶器のような男にうんざりとした声ではやくしろと急かすようにもう一度言われて声に剣呑を混ぜるのもまた蘭丸だった。淡い色をした髪をごっそりと握りこんで、低い位置の頭を揺さぶる。

「バッサリやってやるよ」
「ふん、構わん」

ぐわんと大きく一度頭を揺らした男が、切れと言っているだろうとまた偉そうな顔で口の端を引き上げたので、蘭丸はじゃきんと音を立てて温度のない光の糸を切り取った。








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