23時11分。起きてはいるけれどひとの家を突然訪れるような時間ではない夜。何度も何度も鳴らされるインターホンに立ち上がる。何時だと思っているのかと眉間に皺を刻みながら扉を開けると、古賀に負けず劣らず不機嫌な顔の手嶋が立っていた。手荷物もなくコートのポケットへ手を突っ込んだ手嶋は、よぉ、とマフラーに鼻先を埋めて声をくぐもらせる。寒いから入れて。言いながら早々にブーツを脱ぎ始める男に古賀はため息をつく。入んなよ。結局その夜は返事を待たず上がり込んだ手嶋を風呂場につれていって上がり次第早々にベットへ連行した。
どれもこれも、手嶋のマフラーの下があんまりにも赤かったからだ。

あれから数日、手嶋は未だ古賀の家に入り浸っていた。あのあと、冬の一夜をカーペットで明かした古賀に構うこと無く起きだした手嶋に腹が減ったと起こされ夕飯の残りの炒飯を温めてやった。ネギとたまごとウィンナーの炒飯だったが、男が朝は魚がいいと駄々をこねるのでその日に魚屋へ行って次の日の朝食は鮭を焼いた。なぜ訪ねて来たのか、手嶋は言わなかったが古賀も尋ねはしなかった。手嶋はなにをするでもなく日がな部屋でごろごろとして、古賀が作った食事をとり古賀が焚いた風呂に入り古賀のベットで眠った。押し入れの奥から引っ張り出してきた毛布は床をベットにするのが2日と続いた日から、もうすっかり狭い部屋の一角を陣取っている。


「お前これ見てんの」
「別に。かえていいよ」

その日古賀が広げるのは二日後に提出するレポートだった。単位数を稼ぐために履修した講義はレポートさえちゃんと仕上げればいいもので、配布されているプリントから適当な言葉を組み合わせ頭のなかで練り直す作業を繰り返す。
プリントから目を離さずに答えるとチャンネルを弄るたびに様々な音が入ってきた。女の声、男の声、笑い声、怒鳴り声、機械音、賑やかな音、物悲しい音。耳にぼんやりと入っていたそれらは軽快な音楽と近頃売り出し中のタレントが喋る声を最後にぶつりと聴こえなくなった。突如しんとなった部屋で手嶋はリモコンを握りしめてむすりと口を結んでいる。なんだその顔。手嶋はリモコンを持ったままテーブルに突っ伏した。ぶすくれた顔が見えなくなる。

「きかねえの、なんで来たのか」

「興味ないよ」

聞いて欲しいのかといえば無音が返ってきた。古賀さぁ。腕と木に包まれた声で手嶋がいう。俺のこと好きなんだろ。聴こえる声は不明瞭で顔は見えない。だけれども、そうだよと肯定すればさっきよりもひどい声が甘やかせよと続けるので古賀は今夜もまた床と一夜を過ごすことを思って喉を震わせた。いいよ、なんでもしてあげる。








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