「俺がやってみてもいい?」
その一言を切り出すのに、実はすごい勇気が必要だったことはどうか、ここだけの秘密にしておいてほしい。驚いたような顔をしたユリアンが迷うような顔で差し出してくれる左手は爪が短くて少し腫れている。長い時間をバイオリンに捧げてきた手だ。そっと触れて丸い指先をなぞった。
「俺より大きいんだもんなあ」
丁寧に切られた爪。あんまり器用じゃないユリアンの、一等時間をかけてつくられる指先。身長差もあるから当然かもしれないけれど、重ねた手の違いに笑ってしまう。
意味もなくからめた指をほどいてベッドサイドの保湿クリームを取る。いつの間にか覚えてしまった保管場所は、重ねた時間を象徴しているようで少しだけこそばゆい。大切にしてきたことがわかる手だと思う。なんのために?バイオリンの弾くために。
塗り拡げる油分が俺の指にも広がって、同じ温度が生まれていく。手の甲。付け根。指。爪先。丹念に塗り込みながら、心の奥底で沸きあがる気持ちに蓋をする。嫉妬だ。大事にされたい。愛されたい。何よりも。
(…ダッサい)
そんなの、絶対に言えないけど。浮かぶ言葉の情けなさに死にたくなって顔を伏せる。そんなの知られたくない。飲み込んで、もうひとつの気持ちだけが伝わるようにと祈る。彼が大事にしているものを、大切にしているものごと大事にしたいのも本当なのだから。

「できた、次逆の手・・」
パッと顔を上げた先。顔を赤くする恋人と目が合って、ふたりで赤面してしまうのはそれからすぐのこと。大きさの違う手のひらには、同じ温度が灯っている。







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