たぶん、クリスマスの話だったと思う。 子供の頃に見た絵本のなかで、サンタが街に星を降らせて、子供たちのところに光のプレゼントが届く。 タイトルもなにも思い出せないけれど、見開きのページいっぱいに描かれたやわらかそうで綺麗な光と嬉しそうにプレゼントを抱きしめる子供が気に入って、何度も何度も母親に読んでとせがんだ。 あの一冊はもうどこにいってしまったのかもわからないけれど。 「ずーっと俺の中で星はあのイメージ。だから、はじめて星を出せたとき、めっちゃうれしかったんだよね」 指をくるりと振ったとき。それに合わせてキラキラ光るものが現れて、とても興奮したことを覚えている。 きらきら、きらきら。小さなスパンコールみたいな星屑が瞬いて、あんまりうれしくって昼ご飯を作る母親の背中に飛びついた。 「見て!つっても〜超得意げに見せに行ってさあ。危ないでしょ!って包丁持った母親に怒られても全然気にしないで星出した」 きらきら、きらきら。 母の目の前に生まれた星は変わらず綺麗だったのに、ざっと青ざめた彼女の顔ったら。 その日の昼食はたしか食べ損なった。ぼろぼろ涙をこぼす母親にどうしたらいいのかわからず立ち尽くして、どうして泣いているのかもわからず星をもっともっとたくさん出した。余計泣いちゃったんだけど。 そのあと血相を変えた父親が帰ってきて、台所で泣いてる母親とつられて一緒に泣きながら星出してる俺を見て、どうしてって聞いたこともないようなしんどい声でいうからもうわけがわからなった。だって俺の親父、今まで俺のサッカーの試合だって仕事を休んでくれたことなんてなかったのに。 積もった星を踏み潰して抱きしめられる。どうして。もう一度聞こえた言葉にあ、親父って泣くんだなって思ったよね。衝撃。 「そこからは母親が急に思い出したように泣いたり、親父に連れられて病院行ったりしたんだけど、まあ病気じゃないから何もないわけ。ミュータントっていうんだって知ったのはそこからちょっと先なんだけどさ」 18歳までしか生きられない。そういわれてもいまいちピンと来なかった。だって俺、どこも悪いわけじゃないし。わかんないこと怖がってても仕方なくない?今楽しいほうがいいじゃん。って、これいうとまたちょっとしんどい顔されるんだけど。 笑ってほしかった。すごい、ってあのサンタみたく、光を届けられる人になりたかった。 「ね、ギャビー」 俺の星、すき? 腕の中の彼女に問いかける。返ってくる答えを待って、俺もと返すことを夢想する。 こっそりと指先をゆらめかして生まれる小さな煌めきは、やっぱりあの絵本の光によく似ていた。 |