どこから聞いてきたのだろうか。血相を変えて走ってきた彼女に、手にしていた煙草の灰をガラスの受け皿へ落としながらアナンダは考える。
緩めた唇から煙が天へと立ち上る。汗をかくことが似合わない彼女の額にうっすらと浮いたそれが可笑しかった。
チョコレートの匂いが届いたのか、それともいつかの苦さを思い出したのか、ほんの少し眉を寄せたローズがヒールを鳴らして正面に立つ。
綺麗な顔。
困ったような、難しい顔をしても損なわれないそれが好きだった。なんて顔してんの。
喉を鳴らしたそれに彼女が答えないことを知っていて、だけれどそう言わずにいられなかったのは、思ったよりもその表情が真剣なものだったからかもしれない。

「あなた、誕生日は?」
予想していたのと同じ問いかけに再び煙草を口に銜えた。ミュータント相手にそれを聞ける相手はそう多くない。特にアナンダの学年では。
正真正銘最後の時間を聞くことになるからか、いつの間にか避けられていたその問を投げられるのは、彼女も同じ立場であるからか。
「25日よ。12月のね」
確かめるように開いたiPhoneのデジタル時計が示す数字の意味を、正しく汲み取ったらしい青い瞳が揺れる。
知ってるの。と続いた声は静かだった。にんまりと弧を描いたそれを答えと受け取って、形のいい眉が吊り上がった。
察しがいいわね。足を組み直して向かい合う。
「賢いアナタが好きよ、ローズ」
「……そういうところよ」
にっこりと微笑みながら頬杖をついた。
真っ直ぐにこちらを見る目がここには居ない友人を彷彿とさせて、ああやっぱりアンタ達はよく似ている。

「いいのよ、知らなくたって」
覚悟なんかして欲しくないから。デジタル時計の数字がまたひとつ小さくなる。呟いた声は、煙とともに消えていった。



煙に巻く







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