Novel
澤村さんと青春こく


※2年生設定

冬休みだっていうのに、なんで学校なんて行かなくちゃいけないんだ。
と思う私の裏で、彼に会えるかも、という私もいる。


冬休みに入って五日目。私は学校を訪れていた。


終業式の日、私はインフルエンザで休んでしまった。
ファイルの中に、二学期中に必ず提出するように言われていた進路調査書を見つけて、提出しにきた、ということだ。その上、机の中に終業式の日に配られた宿題のプリントがどっさり入っているはず。
しかしあの担任、それを電話で連絡しないなんて、なんて奴だ。いや休んだ私も悪いけど。
と悪態づきながら廊下を進む。

冬の学校、しかも廊下は外とあまり変わる気がしない。教室などの暖房が点いていればまた違ったかもしれないが、今は冬休み。暖房のだの字もない。

サムサム、と腕を擦りながら職員室へ。
「失礼します」
いつも担任がいるはずの机を見ると、そこには誰もいない。
首を傾げつつ、近くにいた先生に「すみません、○○先生はいらっしゃいませんか」と問う。
その先生はちらりと○○先生の机を見た後、顎に手を当てた。
「ううん、今日来てるかなあ? もしかしたら準備室かも」
「あ、分かりました。ありがとうございます」

いなかったらどうしよう、私のこの徒労はどうなる、と多少ムスッとしつつ、準備室へ足を踏み入れた。

「失礼しまーす」
机は無人。もういいや、机に置いて帰ろう。そう思い机に歩み寄る。
「すみません、○○先生っていらっしゃいませんよね?」
一応、と思い、隣の机の先生に問いかける。
「ああ、うん。確か今は…恋人とバカンスだったかな?」
とお茶目に答える先生を横目に、私は机に紙をこっそり叩きつけた。


さて、次は教室だ。もうプリントを持って帰るだけである。
少しだけ遠回りしてみる。体育館のある方向へ足を向けた。

体育館へ続く廊下のホワイトボードを確認する。
第二体育館――バレー部。
やった。と思ったが、すぐに気分は落とされた。
14時まで。時計を確認すると、14時50分。

着替えるといっても、さすがにこんなにかからないだろう。

私は肩を落としながら、目当ての教室へと向かった。
教室へ入ると、やはりそこはがらんとしている。気温も、廊下と変わらない。
自分の机に近づき、プリントを取り出す。それをカバンにしまったところで、一つの机が目についた。

――澤村くん。私が片思いしている相手。
彼がそこに座り、友人たちと談笑しているのが目に浮かんだ。

私は、吸い寄せられるように机に近づき、彼が座っている椅子に座った。
――す、座っちゃっ、た。澤村くんの椅子に、座っちゃたよ、私。

ドクドクと心臓が鳴る。
大丈夫、誰か来たら「自習してた」って言えばいいの。席を明確に把握してる人なんてそういないだろうし。
そう言い聞かせると、少しだけ落ち着くことができた。

いつもここに座っている彼を思い浮かべる。
住所、聞けなかったな。終業式の日に聞こうって思ってたのに。まあどうせ、今から出しても一日には届かないか。年賀状に「あけましておめでとう。お誕生日おめでとう」って書きたかったな。もう無理だ。年内に澤村くんに会えるチャンスない。でも好きだー澤村くん。常に優しいのも、バレーやってるときはますます男らしい(菅原くん情報)のも、ガタイがいいのも、ときどき意地悪なの(菅原くん情報)も、全部好ガラッ

「っ!!」
突然開かれた教室のドア。驚いて勢い良く振り返ると、そこには澤村くんがいてもっと驚く。
「あれ?みょうじだ。どうしたんだ?」
驚く私を気にせず、彼は優しげな顔で微笑んだ。

「なん、なんなん、ど、ささ、さ、さわ、」
「!? 落ち着けみょうじ!」
わたわたと手を動かす私に驚き、澤村くんも慌てたように声をかける。

「なん、で、どうしているの?澤村くん」
やっと落ち着いた私が問いかける。
「ああ、体操靴を忘れちゃって。年明けたら捨てられるんだったよな?」
「あ、そうなの」

やばい。ますますやばい。ということは澤村くんが彼の机に向かってくるってことで。イコール私が彼の椅子に座っていることがバレるってことで。それはつまり、私、"ジ・エンド"じゃない?

さあっと血の気がなくなる。私はあまりあるとは言えない頭を必死にフル回転させた。
そうだ、これは作戦Aで行こう。よし、準備はいい?

「…ってあれ?なんで俺の所に?」
ほらきた!!澤村くん、あなた意外と単純な男ね。
「私、ここじゃなかったっけ?」
作戦A・とぼける作戦!私は小首を傾げる。
「おう。ここ俺の机」
「ありゃ、ごめん」

平然とした顔を装いつつ椅子から立ち上がるが、内心、彼に私の心音が聞こえないかヒヤヒヤである。
澤村くんは「移動しなくていいよ、めんどくさいだろ」と言ったので声に倣ってまた着席。
彼は机の横にかかっていた靴袋を手に取ると、不意に口を開いた。
「しかし、みょうじは意外とおっちょこちょいなんだな。席、そこなのに」
指差す先には、さっき私がプリントを取りに行った机。
「なっなんで知って」
「だってクラスメイトだからな」

はああ…彼の後ろに光が見える…。私なんて自分のと澤村くんの、それから仲の良い女子少しだけの机くらいしか知らないのに。
「すごいね澤村くん…」
感心しつつ、机の表面に浮かぶ小さなキズに目を走らせていると、澤村くんがガタン、と前の席に座ってこちらを振り向いた。
「みょうじは何してたんだ?」

ぎく、と身体を強張らせて見上げると、彼は不思議そうに眉を上げていた。
よかった。疑ってるんじゃないようだ。
「えっと、自習!」
咄嗟にそう言ったが、自習していた痕跡など全くと言っていいほどない。それを掘り下げられたらまずい。作戦Bだ。

「さ、澤村くんは今日は部活2時までじゃなかったの?」
作戦B。話そらす作戦。
「2時までだったけど、自主練してきた」
「そ、うなんだ」
会えて嬉しいやら困ったやら。でもとにかく、澤村くんの気を逸らすことは出来たみたいだ。

「で、みょうじはなんで知ってんの?」
「何を?」
「男バレが今日、部活早く終わること」
「ぁ、」
ししししまった。私はとんだ墓穴を掘ってしまったようだ。

「えと、あのそれは、えっと」
ちらと澤村くんを盗み見る。
「!」
…成る程、菅原くんが言っていたのはこのことか。
そう思えるような笑顔、と言ってもどことなく企んでいるような表情だ。

「さ、さわむ」
「ん?」
食い気味で入ってくる澤村くんの顔はもう、怖すぎる。一見快活な笑顔に見えないこともないが、なんか怖い。そう、本能的なアレ。

「みょうじは今日、自習のために学校来たのか?えらいな」
あれ?さっきの顔はただの笑顔だったのかな?疑ってごめん、澤村くん。
「っいや、違うの。先生に進路調査書出しに来て、それからプリ…じゃなくて、出しに来たの!で、自習はついで!」
危ない危ない。プリント取りに来た、なんて言ったら辻褄が合わない。
恐る恐る彼を見る。澤村くんはまくし立てるように言った私にちょっとだけきょとんとした顔をした後、やっぱりあの『本能的に怖い』笑顔を浮かべる。

「さ、澤村くん?」
「プリ…何?」
「!! ぷっぷぷプリン!!帰り道にプリン買おうかと思っ」
「違うだろ?」

えええっええ何この人澤村くんじゃないの?いやでも笑顔がステキ!澤村くんだ!

「ななっなんでそんなこと、別にどうだっていいことだよ」
「どうでもよくない」
「なんで!」
「んー…」

澤村くんは顎を手で触り悩むような素振りを見せて、少しの間黙った。
それから、頭の上にクエスチョンマークを浮かべる私に視線を移して、おもむろに口を開く。
「好きな子には意地悪したくなる、って言うだろ?」
「……は?」
「好きなんだ」
「は」

口を「は」の形にしたまま固まってしまった私から一拍遅れて、澤村くんは首を傾げて少しだけ頬を染め、ニッコリと笑った。
「だっだだだ誰が、誰を、ななななっ何を好きだって!!??あっプリン?澤村くんプリン好きなの!?」
ガタンと音を立てて立ち上がりそう叫ぶと、彼はハハハと豪快に笑った。
「違う。みょうじだ」

もう、驚きを通り越して呆然としてしまった。膝の力が抜け、彼の椅子へ三度目の着席。
「……す、き、なの?」
コクリ。
「私のこと?」
またコクリ。
「澤村くんが?」
うんうんと頷く彼。

「みょうじは?」と問いかける澤村くんに、私は「大好き!」と満面の笑みを浮かべた。



***
初作品です。口調意外と分からない…orz

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