最果てまでワルツ | ナノ
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テーマ「禁断の関係」
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 この関係に名前を付けるとしたら、何が相応しいのだろう。



 リンやオビトの夢に悩まされなくなってしばらく経ち、体調も随分よくなってきたところで、火影室へ足を運んだ。前回足を向けたのは、預かっていたカカシの部屋の合鍵を返したときだ。返却が遅れたことを詫びると、気にするなとにこやかに受け取ってくださった。
 活力丸や睡眠導入剤の使用が必要ないくらいまで体も精神も回復していること、今まで免除していただいていた、AやSランク任務への復帰を希望する旨を伝えると、

「うむ。よい顔をしておる」

と満足そうに頷き、明日よりまた、AやSランク任務を請け負う手筈を整えておくと告げられた。これまでの配慮に感謝する言葉を改めて口にし、深い礼をして退室し、火影室の戸から離れる。
 廊下の窓から風が吹き込む。里に生えるあらゆる緑を纏ったそれは、たとえどんなに胸中が嵐で掻き回されていても、爽やかで心地よく感じられる。

 火影室から出たあとは、ちょっとした用事で火影邸やアカデミー内を歩き、それらを終えて少し腰を下ろすべく休憩所に向かった。日光が多く取り入れられるようにと、窓はどれも大きい。先客がちらほら居て、内一人は友人だった。

「あら。今日は任務じゃないの?」
「うん。用事を終わらせただけ」

 声をかけた紅は手元の本を閉じた。ポンポンと、自分のテーブルの空いている椅子を叩くので、そちらに腰を下ろす。休憩所には紅の他、あまり話したことのない男性が三人。その三人とも、紅のように本を読んだり、お茶を飲んでぼんやりしたり、眠っているのか腕を組んで目を閉じていたり、各々で休憩を取っている。

「何だか久しぶりね」
「そう?」
「サホ、最近ずっと単独の任務ばっかりだったじゃない。誰かと組むとしたら、中忍に成りたての子たちの監督としてが多かったし」
「あー……そっか。そうだね」

 周りへの気遣い半分、話を聞かれたくない気持ち半分で、わたしたちの声は自然と小さくなり、聞き取りやすいようにと距離も近くなる。紅からはわたしのものとはまったく違う、甘くて大人っぽいいい香りがした。
 SやAランク任務が命じられない上忍のわたしは、それなりに便利だったようだ。Bランク任務での若い中忍たちの隊長を務めることが多かったし、Bランク任務をわたし一人に任せれば、それだけ他の任務に中忍たちを回せる。
 おかげで休みはほとんどなかったけれど、任務内容はわたしの体調を考えてかそれほど苦になるものではなかったし、仕事に集中している間は気が紛れるから、むしろそれくらいの多忙さがちょうどよかった。

「体調は良くなったの?」
「うん。本調子に戻ったから、任務の免除を解除してくださいって、さっき三代目に頼んできた」
「そう。よかったわ」

 きれいな赤い目に合うように、紅はそっと微笑んだ。顔を合わせる度に、美しい人だと思わずにいられない。

「調子が戻ったなら聞きたいんだけど、顔色が優れなかったのは、やっぱりカカシが関係したりするのかしら?」
「か、カカシ? どうして?」

 唐突にカカシの名前を出されて動揺してしまい、思わずどもってしまう。紅はわたしの反応に声を立てずにおかしそうに笑うと、

「カカシがろくでもない男になったのは、サホの様子がおかしくなってからだったから、まあ関係してるんでしょうね、というのが私たちの見解だったもの」

どこか悪戯心を含んでそう言った。

「……『たち』って言うのは」
「サホが今、頭に浮かべた人は全員入っているんじゃないかしら」

 わたしが思い浮かべたのは、ほぼ年上ばかりの同期のメンバー。ゾッとした。みんなが何を考えているのか正確には分からないけれど、カカシの間で一悶着あったのだろうということを皆が気づいているという事実は、わたしにとって結構恐ろしいことだ。

「ま、それは今夜じっくり聞かせてもらうわね」

 暗に本日の夜のお誘いを受け、拒否権のないわたしは苦笑いを返した。



 紅が選んだ店は全てが個室で区切られている居酒屋。照明も暗めで、通路側には長く重い暖簾がかかっているので、人の目も耳にさほど気にせずに済む。

「それで、何があったの?」

 『とりあえず生』と大多数が選ぶ呪文を紅が唱え、メニューを開くこともなく同時に枝豆や焼き鳥の盛り合わせを頼み、それら全てが揃ってビールで喉を潤したあと、髪を耳にかけながらわたしに問うた。
 炭酸の痺れを飲みこんでから、枝豆の莢を摘まみ、唇を付けて力を入れ実を押し出す。

「何から説明すればいいのか……」

 たくさんのことがあって、どこから説明するべきなのか考えあぐねていると、

「そうね。現状はどうなってるの?」

と、今の状況をまず教えてくれと促された。順を追って最後に告げるより、結論を先に伝えてから説明を添えるのは、報告書の様式がそうであるように理に適っている。

「……それが分からないんだよね……」
「分からないって?」

 現状を報告する以前に、わたしとカカシが現在どんな状況なのか、自分でも分からない。

「……くる」
「え?」

 言いづらさからか、声は小さく、紅の耳にははっきりと届けられない。炭酸で少し膨れた腹に力を込め、内臓から押し出すように、再度同じことを口にした。

「うちに、帰ってくる」



 任務が終わっても、お酒を飲んで帰っても、部屋に戻ったわたしには仕事が待っている。つい最近までBランクの任務の多くをわたしが請け負っていた。それに関する資料の提出や問い合わせ、残務処理も、当然わたしが関わることが多い。
 それらが今、わたしの部屋のローテーブルの上に広げられている。急ぎのもの、そうでないもの、時間がかかるもの、そうでないもの、といくつかに分類し、急ぎで時間のかからないものを今夜中に終わらせ、急ぎで時間のかかるものをできるだけ進めておこうと決めた。
 以前自分が請け負った任務とはいえ、記憶と資料だけを頼りに進めていくのはなかなか骨が折れる。それでも、記憶と言うのは芋蔓のように、きっかけさえあればスルスルと引きずり出せるものだ。
 眠気覚ましのコーヒーが半分にまで減ったところで、リビングに面したベランダに人の気配を感じた。張り巡らせている感知結界が告げるのは、ここ最近よく引っかかるチャクラ。
 テーブルの前から腰を上げ、閉めていたカーテンを横に引くと、男が一人。もう慣れた光景だけれど、まだ違和感は覚える。

「あんたの部屋は、隣なんだけど」
「知ってるよ」

 窓を開けつつ言えば、男は――カカシは、サンダルを脱いで了解も得ずに部屋へと上がる。自分の部屋ではなく、隣人の部屋へ。

「仕事?」

 テーブルの上に広げた資料の数々が目に留まり、それに視線を向けたままカカシが問う。

「そう。だから――」
「ソファー借りるね」

 だから自分の部屋に帰って、と伝える前に、カカシは額当てなどに身に着けていた硬いものを取り払うと、リビングのソファーに寝転がって目を閉じた。背の高いカカシには、二人だと十分、三人だと少し窮屈なソファーは狭い。現に足も背も曲げないと収まらないけれど、本人は自身の腕を枕に寝に入っているから構わないのだろう。
 ため息が出そうになるけれど、出したところでカカシは部屋を出ることはない。勿体なく思えてきたので、わたしはテーブルの前に座って、今夜中にと決めた書類に再び手をつけた。


 カカシがこうして、自分の部屋ではなくわたしの部屋に帰ってくるようになったのは、あのときからだ。
 向き合って話をして、共に地獄に落ちると言ったカカシと抱き合って。互いの気持ちが落ち着いたところで、暗部のカカシに緊急招集がかかった。伝令の鳥がコツコツとわたしの部屋の窓を叩き、カカシは「行ってくる」と言ってわたしから離れ、夜の闇に消えて行った。
 残されたわたしは、食事も風呂も済ませていたので、のそのそとベッドに入って、カカシのことやリンのことやオビトのことを考えていたら、いつの間にか寝てしまっていた。夢は見なかった。
 そして朝起きて、任務のために部屋を出て、終わらせて戻り夜になると、カカシがベランダから訪ねてきた。
 昨日の今日の訪問に鼓動は速くなり、それとは別で何か用があるのだろうと、平静に努めるわたしに対し、カカシは「ソファー借りるね」と言って、ごろんと寝転がった。

「え……? 何か用があったんじゃないの?」
「んー……」

 相槌のような声は返ってきたけれど、それだけ。大分疲れていたのかすぐに寝てしまったようで、穏やかな寝息が聞こえてきた。
 昨日の今日だ。共に地獄に落ちようなんて大層なことを言った、次の日だ。
 そんな日に訪ねてきて、いきなりソファーを陣取って寝るって、一体どういうこと?
 わたしの疑問など知らぬ存ぜぬとカカシは眠り続けるので、明日のことも考えて、カカシの体に予備の毛布をかけたあと、わたしも自分のベッドに入って寝た。
 目を覚ますと、すでにカカシの姿はソファーになく、ベランダにあったカカシのサンダルも消えていて、残っていたのは畳まれた毛布だけだった。


 そういうことが、あれからずっと続いている。少なくとも、わたしの部屋の明かりが灯っていれば、カカシはベランダに現れサンダルを脱ぎ、身を軽くしてソファーに寝転がる。カカシが自室へ帰るのは、恐らくわたしが任務で里を離れ部屋にいないときか、明かりを消して就寝しているときくらいだろう。
 ソファーを占領されたわたしは、仕方ないので足下に座り、本を読んだり忍具の手入れをする。
 今夜みたいに、書類仕事をするときもそうだ。ソファーを背もたれ代わりにして作業を続けるので、背後にはカカシの気配を、文字通り肌で感じている。
 任務に関わる書類や文献が関係者以外の目に触れることは避けたいものだけど、ここに持ち込むものはどれも極秘というわけではないし、カカシは火影直属部隊の隊長だから把握しようと思えば里中の任務の内容を知ることはできる。おまけにカカシは色違いの両目を閉じて寝ている。
 手を止めて後ろを向けば、マスクを下ろしたカカシの寝顔がある。左目には縦に走る傷痕。口元にはほくろ。完全に無防備な状態を晒しているということは、わたしが害を成したりしないという確固たる安心があるのだろう。
 そう思ってくれていることが嬉しくないわけじゃないけれど、カカシの行動の意図が全く読めないので、手放しで喜べる状況ではない。


「つまり二人は恋人ってこと?」


 『カカシがうちに帰ってくる』と話せば、紅はやや疑問を持った口調でそう返した。
 恋人――かすらもよく分からない。わたしとカカシは何になるのか。
 地獄に落ちても構わないから、カカシを想うことを許してほしいと願った。カカシもまた、道連れになるからと言ってくれた。
 だからまあ、恋人なのかもしれない。恋人だから、カカシは自分の部屋じゃなくて、わたしの部屋に帰ってくるという解釈は、紅に話す前から何度か出したことがある。

 だけど恋人って、もっとこう、違うんじゃないのだろうか。

 交際経験のないわたしが知っている恋人の在り方は、友人や同僚から聞くものや、本などから得られる情報だけしかない。それでも、『恋人の家に帰って寝るだけ』というのが、恋人の在り方にしてはやや素っ気ないというのは分かる。
 それに、正直『恋人』とあっさり言葉にするのも少し違う。そんなにきれいな感情だけを、カカシに向けているわけじゃない。

 だからわたしはよく分からない。この関係にはどんな名前がつくのか。



 おごるから。そんな理由で、わたしは道で出くわしたテンゾウを、近くの飲食店に誘った。

「何でも頼んでどうぞ」
「はあ」

 向い合わせに座り、メニュー表を差し出すと、テンゾウは渋々と言った様子で開く。背の半ばほどまでの長さだった髪も、歳を重ねるにつれ短くなった。男の子だったテンゾウは男の人になって、たった数年でこんなにも変わるんだと感慨深くなる。
 カカシも昔は小さかったけど、今は見上げないといけないほど身長が伸びた。声変わりする前のカカシを長く知っているだけに、低くなった声に慣れるのも時間がかかったなぁ。

「決まりました。サホさんは?」

 テンゾウを見ながらカカシを思い出していると、渡したメニュー表を返された。中を開き、今の舌と腹に何がいいかを問い、反応が良かったものを選んで店員に注文を済ませる。
 料理が届くまで、あとは待つだけ。そうなると、自然とお喋りの時間になるわけだけれど、わたしの口は閉じたままだ。

「何かお話があってボクを連れ込んだんじゃないんですか?」
「……人聞きの悪い言い方」
「事実そうでしょう」

 熱いおしぼりで手を拭くテンゾウは、頬杖をつくわたしに、分かりやすく嫌味を言った。まあ確かに、『遠慮します』と断っていたのを引っ張ってこの店に入ったわけだから、連れ込んだという表現の方が的確ではある。

「サホさんがボクに話があるとしたら、カカシ先輩のことでしょうけど」

 ズバリと本心をついてきたテンゾウに、わたしは無言を貫いた。沈黙は肯定とみなされると知ってのことだ。

「まだ、喧嘩してます?」
「……してはいないかな」
「そうですか。そうですよね。先輩、ちゃんと自分の部屋に帰るようになったので安心しました」

 恐る恐る訊ねたテンゾウに否定すると、ホッとした顔でお冷のグラスを手に取って一口飲んだ。

「自分の部屋に帰るのは、半々じゃないかな。多分」
「えっ? だって、任務が終わったら真っ直ぐ帰ってるのに……」

 驚いたテンゾウは、グラスから手を放したあと、水滴を拭うためにまたおしぼりに手を伸ばす。こっちを見てくる丸く開かれた猫目から逃げるように、今度はわたしがお冷のグラスを手に取った。

「自分の部屋じゃなくて……わたしの部屋に帰ってくるの」
「サホさんの部屋に?」
「わたしの部屋に」

 じわりと薄く、表面を覆う冷たい膜に指を滑らせると、それは他と繋がり粒となり雫になる。針ほどの大きさの、貫くような冷たさがキンと指先を痛めた。

「ちょっと待ってください。えっと、仲直りしたんですよね?」
「仲直りって……」

 幼い子どもみたいな表現をするテンゾウに、苦笑いを浮かべてしまう。
 仲直り。仲直りねぇ。わたしとカカシの間にあった確執や気まずさ、溝を喧嘩の一つと捉えるなら、仲直りという捉え方は正しい。

「サホさんの部屋に帰ってくるって、どういうことなんですか?」
「……それが分からないから、結構悩んでるっていうか……」

 当人のわたしが困惑する状況は、当然ながらテンゾウにとっても理解不能だろう。カカシの部屋はわたしの部屋の隣だ。なのに自分の部屋ではなくてわたしの部屋に帰り、狭いソファーに身を丸めて窮屈そうに眠る意味が分からない。

「先輩とサホさん、もしかして付き合ってるんですか?」

 先日、紅にも訊かれたことをテンゾウが投げた。

「……よく分かんない」
「ん? んん? よく分かんないのはボクの方ですよ」

 額に手を当てるわたしに、テンゾウは頭を捻らせ、なんだったら顎にも指を添え、いかにも疑問を浮かべているポーズを取ってみせる。
 注文した食事が来たので、お互い箸を進めながら、これまでの経緯を簡単に教えた。
 オビトが好きだったのに、いつの間にかカカシの方へと気持ちが向いてしまっていたこと。それをカカシに打ち明けて、いくつか話を重ねてやっと、カカシを想う気持ちに躊躇うことはやめたこと。

「それからずっと、わたしが居るときはわたしの部屋に帰ってくるの」

 テンゾウに話したことは、紅に話したときと同様、かなり掻い摘んだ内容にしている。リンやオビトの夢を見るようになってまともに眠れなくなったこと、それでカカシに八つ当たりをして、カカシを傷つけたことは伝えたけれど、わたしが裸で抱いてほしいと乞うたことや、何もしていないけど共にベッドで寝たことは決して言えない。絶対にドン引きされる。
 話し終える頃には、テンゾウは頼んだ肉豆腐を半分まで胃の中に収めていた。喋り通しだったわたしは、鰤の煮つけに三分の一ほど手を付けたくらいだ。

「いやぁ……仲が悪いよりは、どうせなら仲良くしてほしいとは思っていましたけどね。まさかそんなことになっているとは……」

 眉を寄せるテンゾウは、非常に難しい顔をしている。傍から見ても深い溝があったわたしたちが、一転して男女の仲になっているわけだから――なっているのかも、今やよく分からない。そう、分からない。分からないことだらけだ。

「テンゾウはどう思う?」
「何がです?」
「カカシが何を考えてるのか、分かる?」

 問われたテンゾウは、箸を止めて、喉で鳴らすだけの唸り声を上げた。

「ボクよりサホさんの方が付き合いが長いでしょう」
「今のあいつと一番長く居るのはテンゾウだもの」
「そうは言いますけど……それでもやっぱり、サホさんから見えるカカシ先輩は、サホさんにしか見せないんだから、ボクには分かるわけがありませんし」

 尤もらしいことを言って、誤魔化された気分だ。誰だって自分から見えるものしか見えない。わたしから見えるカカシは、わたししか知らない。
 テンゾウが答えることができないことも納得できるけれど、うまいこと正解が見つからないことへの八つ当たりからか、わたしはどうやらテンゾウを咎めるような目で見ていたらしく、テンゾウが呆れた顔を寄越してきた。

「じゃあサホさんは、カカシ先輩とどうなりたいんですか?」
「どう……って言われても……」
「カカシ先輩が好きなんですよね? 初恋の人じゃなくて、カカシ先輩が」
「……うん」

 イエスかノーかで問われたら、答えはイエス。オビトのことは今でも大事。ただ、オビトに向けていた恋心が少しずつ思い出になって、今はカカシのことで胸も頭もいっぱいになっている。

「それって、恋人になりたいってことなんじゃないんですか?」

 そう――なのだろうか。

「よく分かんない。カカシのことはずっと前から知ってるし、色々あったからね。仲良かったときも、悪かったときも、嫌いだったときも」

 わたしにとってカカシは、頼りになる同期で友達だった。わたしが悩んでいたり立ち止まっていたら、話を聞いて背中を押してくれた。
 オビトが死んでしまってからは、共にリンを守ろうと誓い合った仲間。
 リンが死んでしまい、クシナ先生やミナト先生が亡くなったあとは、許せない恨みを抱く相手。
 それが今は、一人の男として彼を想っている。
 この感情だけで考えるなら、わたしたちには男女交際を始めるだけの条件が整っていて、もはや言葉を介さないだけで、わたしたちは恋人なのかもしれない。

「結婚したいとかないんですか?」
「けっ……」

 テンゾウの藪から棒な発言に驚くと、びっくりするくらい大きな猫目が、わたしを捉えて離さない。

「だって、もう成人してるし、できるじゃないですか」

 わたしもカカシも二十歳を過ぎている。どちらも上忍で、一人暮らしをしていて、世間一般の括りで見ても大人に違いない。
 大人の男女が付き合うだのなんだのとあれば、確かにその先にある結婚というものも考えることはおかしい話ではない。藪から棒な発言では決してなかった。
 『カカシと恋人』という言葉にも戸惑っているのに、『カカシと結婚』だなんて。
 いろんなことが、自分の頭の容量を超えてくる。頭痛はしないけれど、思わず額に手を添えた。
 本当にね。もう成人してるのにね。わたしはいまだに、自分自身のことが理解できないでいる。

「面倒くさい女だね、わたし……」
「まあ……あの人も面倒くさい男ですから。ちょうどいいんじゃないですか、お互い様で」

 苦笑しながら言うテンゾウは、初めて会った頃のようなかわいらしさがなくなっていて、本当に大人びてしまった。わずかばかりの寂しさから悪戯心が湧き、ちょっとからかいたくて、「カカシに言っとくね」と言ったら、引きつった顔で「やめてください、ほんとに。ほんとに」と、食事を終えて別れるときにも念押しされた。



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