「ごめん、俺たち別れよう」


2年半付き合っていた彼に告げられた別れの言葉は、あまりにシンプルで‥。

逆にそれが、私の心を深く抉るように傷付けた。


「‥なん、で?」

「元々、本気で付き合ってた訳じゃなかったし‥」


困ったように笑顔を作る彼に堪えていた涙が溢れだした。


「ごめん、」


謝って欲しいわけじゃないのに繰り返される謝罪の言葉に、余計涙が溢れた。


逃げるように背中を向けて歩き出したのは私で、最後の最後まで負けてしまった、と思った。

でも彼から“好きだ”と言われた事はあっても“愛してる”と言われた事はなかったし、“結婚を前提に付き合って下さい”と言われてもいないし、彼が本気じゃない事は何となく気が付いていた。ただ、彼は“彼女”という存在が欲しくて私を求めていただけ。

だから、“騙された”とかじゃない。


私の誤算だ。いや、過信と言うべきだろうか。


2年半、短いとは言えない時間を共に過ごした彼が浮気をしたこともあったけど必ず私の所へ戻ってきてくれた。だから、これから先も‥ずっと一緒だと、信じて疑わなかった。



そんな彼に別れを告げられて、しかも‥それが最悪のタイミングだったんだから涙が止まることもなく、気が付けばアパートの階段を駆け上がりある男の部屋の扉をノックしていた。



「はい、はーい。真っ昼間から俺の貴重な時間を潰そうとしてるのは誰だコノヤロー‥って、おい。どーしたよ?」


扉を開けて、ぐちゃぐちゃ顔で泣いている私を見ては心配そうにしながら部屋に入れてくれた銀ちゃんは、いつも彼のことを相談していた相手で。この状況を一人では抱えきれなくて、ここに来てしまった私を何時ものように迎え入れてくれた。


「お茶でいいよな、ほら」

「‥ん、」

受け取ったお茶を飲み干して、俯きながら此処まできた経緯を説明する。



「彼に、別れようって言われちゃった」

「なんで、」

「元々、本気じゃなかったって‥」

「お前は、それ知ってて付き合ってたんだろ?」

「うん」

「じゃあ、なんでそんな泣いてんだよ」

「‥‥‥」

「前だってあったろ、別れようって言われて今みたいに俺ん家来たこと。そん時は泣くどころかキレてたよな」

「‥‥‥」

「なんか言えよ」

「‥‥一人じゃ抱えきれないことだから。責任取ってくれると思った」

「なに、責任?」

「妊娠したの」

「‥‥‥」

「あの人の子だもん。私、浮気なんかしてないし」

「‥‥‥」

「私‥どうしたらいいのかな。一人で育てられる自信ないの」

「‥名前」

「こんな、タイミングで‥」

「‥名前」

「産まれてきても、お父さんがいないんじゃ‥」

「‥名前!」

「銀ちゃん‥私、どうしたら‥」






「俺の子だろ?」

「‥え、?」









「俺とお前の子だろ?」

「銀ちゃん、なに言って‥」
















「名前、好きだ。結婚しよう」



見上げると貴方の笑顔と視線が重なって、忘れていた暖かい気持ちが‥生まれた。





神様‥こんな恋も、ありですか?







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