友達はみんな、年上の恋人を羨ましがるけど…実際は全然良いことなんてない。
確かに大人だし(かなり子供っぽいところもあるけど)何かとリードしてくれるし、優しいし、お金もある。
でも、大人で何かとリードしてくれるのは経験豊富だからで、優しいのは女なら誰でも。お金があるのは…まあ、年齢関係ないけど国家錬金術師で大佐の地位に居据わっているから。
ほら今も、きっと私にくれるお花を選んでるだろうけど、店員の綺麗なお姉さんを口説こうと頑張ってる。
待ち合わせ時間まで、あと10分。
それまで、彼は彼女を口説き続ける。私の目の前で声をかけないだけ、まだマシか。
自分でフォローを入れる自分が情けなくなる。
「名、待ったか?早く来たつもりだったんだが…」
「私が早く来ちゃっただけだから」
時間ぴったりに登場した彼の手には私の大好きな真っ赤なチューリップが1本。
花言葉は愛の告白。
「すまなかったね。お詫びと言っては何だが、君にこれを」
「ありがとう、私がチューリップ好きなの覚えててくれたんだね」
差し出された可愛いチューリップを笑顔で受け取る。
「当たり前だろ、チューリップは君にぴったりの可愛い花だからな」
「ありがとう」
大好きな花をもらえたことは素直に嬉しかったけど、うまく笑えない自分が嫌で‥それを隠すように俯いた。
「何だか今日は元気がないな、久しぶりのデートだというのに」
「そうかな…」
「この間の愛の注ぎ方が足りなかったのかい?」
「‥‥‥‥」
「なんだ、何かあったのかね?」
「…ロイ、」
「ん?」
「えっち、しよう」
「名から誘ってくるなんて、明日大変なことが起こるんじゃないか心配になるよ」
ホテルの一室。
押し倒されて囁かれた言葉に苦笑いを浮かべる。
ロイの顔とその後ろに見える天井が歪む。
‥‥あれ、私泣いてるのかな。
首元に顔を埋めていたロイが頬を伝って首に流れていった涙に気付いたのか驚いたような顔で私を見ている。
泣きたいわけじゃなかった。泣くつもりなんてなかったのに、私の瞳に溜まって視界を霞ませているのも頬を伝って流れていく生暖かいものも、紛れもなく"涙"で‥。
「‥名、」
ロイを困らせたい訳じゃない。
こんなにみっともなく泣きたいわけじゃなくて‥貴方の本当の気持ちが、知りたいだけなの。
「名、」
「‥ロイ、」
「‥‥‥‥」
「あのね、ロイ‥」
「名、不安にさせてすまなかった」
「‥え、?」
「君が不安になっていることは気付いていたんだ。でも、知らないふりをした。それを口にして君の不安を取り除くには私の気持ちを君に、伝えなければならないからだ」
「‥‥」
「君の前で情けない姿を晒すのは嫌だったんだ」
「ロイ、意味がわからな‥「君が考える以上に私が君を愛してるってことだ」
「私が考える以上にって、どれくらい?」
「全身を貪り回しても足りないくらいだ」
頬を何度も撫でられて、全身に降り注ぐ唇に小さく声を漏らした。
全身でお互いを感じ合って、いつもより深く深く、深く繋がった。
あなたの見る世界
(きっと、私と変わらない)