※会話だらけ、誰が誰やら





1、はじまりは唐突に




「見舞い?」

「ああ、やっぱり迷惑か?」

放課後の教室で、やたら辛気臭い真面目な面持ちで提案されたのは予想外のことだった。

「いや、そんなことはねえけどよ、あいつもうほぼ全快だぞ?今日なんてほとんどサボりだ、たぶん」


「京平は見かけによらず真面目だよねー」

「お前は見かけによらず不躾だよな」

「静雄の言葉は嫌味じゃない分ぐさっとひびくよ」


「で、行っても大丈夫なのか」

「まあ、別に問題はねえけどよ」

臨也が学校を休んで1週間が経とうとしていた。まあ、めずらしいことでもない。
三日三晩寝込んだあとは、結構回復していて、サボりも同然に休みを満喫している様子だった。いい加減学校行けよと、今日にでも催促しようとしていたところだ。
ただ、門田には確かに珍しいことだったのかもしれない。まだ新学期が始まって間もない。臨也のサボり癖もまだまだ顕著ではない。


「元気なら元気でいいんだ、それに越したことはねえしよ、皆でなんかうまいもんでも食おうぜ」

「門田…」

「お前んとこ大家族だったよな、みんなで鍋とかすればいいだろ」


「じゃあ久しぶりに僕もおじゃましようかな」

「おまえは本当にがめついな」

「ちょ、独り暮らしなめんなよ」


俺としては晩飯作るの手伝ってもらえたら、そりゃあ助かるけど、そんなことさせていいのだろうか。

よっぽどうろうろしていたらしい俺の視線を捕まえて門田は言った。

「お前も臨也の分までいろいろすんのは大変だろ」

こりゃあもしかして、俺が家事に辟易してることも見越してなのか、そうなのか?

(なんて男だ、門田京平。)












2、お見舞い




「しっずちゃーんおっかえりー!」

毛布をマントのようにひるがえし臨也様がご登場だ。ほら、ぜったいこいつ暇をもてあましすぎてこんなにハイテンションなんだ。

「ええ!?なに、ドタチン!?」「僕もいるよー」「なんでドタチンがいるの!?」
「お前の見舞いだとよ」
「ええー!?うっそ、ありがとドタチン!」
「元気そうで良かった」
こんな臨也なのに、門田は心底安心したような笑みをうかべている。すげえな、おい。俺はキレる寸前だったぞ。

「はいはい僕はスルーなのね!」

空気を読まない新羅は見向きもされないまま臨也に一発殴られていた。




「ほら、なんか食えそうなものあったら食え」

「うわ、何か時間かかってると思ったらこんなに買い込んでたのかい!?」
「すげえ…」

目の前には、コンビニ中のデザート各種、ゼリーやらケーキやらをかき集めた、夢のような光景が広がっていた。

「ええっすごい、どれでもいいの?」
「おお」
「ありがとうドタチンっ。どうしよう、これも、これもおいしそう、選べない」
「全部一口ずつ食べればいいだろう」

ぐおっふ、こいつ今何て言った。そんな贅沢許されるのか!?

「ドタチンー、もう大好き!」

うおお、臨也も何言ってるんだ!そして簡単に抱きつくな!

「お前、いいのかよこんなこと許して!?」「食欲があって何よりだ」

あああ、もうだめだこいつ。




「今日はみんなで鍋しようって話になってるんだが、食えそうか」

「うん、美味しいのいっぱい食べたら、元気になってきたよ」

「そいつは良かった」

ああ、なんでこんなにイライラするんだ。

「そんなに元気になったんなら、お前洗濯くらいしとけよ!」

「ええーシズちゃんなんか日本語おかしいよ」

「まあそう言うなよ静雄、俺も手伝うからよ」

あああ、門田、お前ってやつは…!だから俺は怒りきれもせずにこんなにもやもやするんだろ!?

(どうしろっていうんだ…!)









3、ご対面


「ただいまー!」
「帰…(ただいま)」
「おお?なんだか今日はにぎやかだねってああ新羅さん!こんにちは!」
「おやおや、見ないうちに大きくなって」
「迎…(いらっしゃい)」

「あれえ、なんだか知らないお兄さんもいる」
「怖…(ちょっとこわいです)」

「臨也と静雄の…妹か?」
「京平、ちょっと怖いだって…!あはは!」
「お前はちょっと黙ってろ」

「くるりとまいる、妹です」
「疑(このひとは?)」

「これは門田京平っていって臨也と静雄の友達ね」
「京平さんですね、よろしくです!」

「確かに見た目はアレだけど全然怖がることはないよ」
「アレってなんだ、こら」

「でもドタチンは本当に良い人だよ」
「ありがとな、臨也」

そこはいちいち良い雰囲気になるのやめられないの?俺、そろそろ泣いていい?

「おお、いざ兄がそんなこと言うなんてちょっとただものじゃなさそうだね」
「喜…(興味深いね)」

「臨也と静雄の妹ならいい子に決まってんな」

なんて盲目なんだ、門田…!

「それはどうかと思うけど!あは!」
「変…(面白い)」
「それで、京平さんは私たちと遊んでくれるの?」
「おお、もちろん」



まあ、仲良くやってくれそうで何よりだ。

(父親みたいだな)





4、やっぱり虚弱は虚弱




「きゃー、クル姉にげてー!」
「へへへっもうちょっと…」
「兄…無…(いざやにいさんにはつかまらない)」

「マイルこっちだ!」
「京平さんっナイス!」


「すごい元気だねえ…」
「……ああ」

すっかりなついたらしい妹とやたらテンションの高い臨也と門田が家中を縦横無尽に駆けまわっていた。騒がしい妹たちの相手をしてくれるのは大助かりなのだが、ただひとつうざったいのは、今さっきから始まったこの独特の頭痛で。

「臨也」

腕をとっ捕まえて、動きを止めさせる。
この頭痛は間違いなく臨也の体調不良から来るものだ。

すごい顔で睨まれる、が知らない。

「なになに、シズ兄」
「良…(今いいところなの)」

「門田がいっぱいお菓子買ってきてくれてんぞ、一回おやつ休憩しろ、それにあんま遅くに走ると近所迷惑だ」

「お菓子!?」
「飯…(ごはん前なのに…)」

「今日は客が居るから特別」
「やったあ!」

「なんだ休憩か?」
「ありゃはしゃぎすぎだ、よっぽど構ってもらえるのが嬉しいんだろうけどよ」

「そりゃよかった。そうだな、はしゃぎ疲れて熱でも出したら大変だもんな」
「おお。そうだ門田、ちょっと2階からテーブル運ぶの手伝ってくれないか?ここのに繋げちまうからよ」
リビングのテーブルは7人座るには少し小さいだろう。まあ、俺一人でも運べるのだが、本題はそっちではなく、おそらく臨也が今門田にあまり詰め寄られたら困る状況だろう、という俺の気遣いだ。

門田は巻いたし、これなら臨也も文句ないだろうと一安心しつつ、自分の優しさに感動していたら、隣に見てはいけないものをみてしまった。新羅が目をらんらんとさせながらそこにいた。

「君たちのその通信機能は本当に興味深いよっ、ぜひ今度、解ぼ「ああ?「なんでもないです、すみません」」」

こいつは、なんで気づいていつんだ、恐ろしい。


階段を上っていく背中に聞きたくなくても下の二人の会話が届く。

「新羅ぁ」

「はいはい」

それしか言ってないのに新羅は臨也のかばんを勝手にごそごそして、俺にはなんだか分からない薬を臨也に渡しているようだった。
(だからお前らこそ何なんだ…!)









5、最後はみんなで仲良く




「すごいですね…」
「幽くんおかえりーちょうど今からご飯だよ」

テーブルにぎゅうぎゅう詰めになって鍋を囲む。
この人数だと本格的な戦争がはじまりそうだ。


「幽くんも帰ってきたことだし始めようか!」




「「「「「いただきます」」」」」」


「ほら臨也、これ食ったか?」
「まだ!ちょうだいドタチン」
「ほれ」

あああ、こいつらはまた、妹たちもいるっていうのに!

「京平さんわたしたちもー」

ほら言わんこっちゃない。

「ほら、負けずに食え」

今度は完全にお母さんだな、こりゃ。

鍋の惨事に集中してたら、テーブルの下でくいくいと袖をひっぱられた。

「シズちゃん、……さっきは、おせっかいなことを…」

「お前まだ言うか、いい加減しつこいぞ」

「そうじゃなくて、あ、…ありがと、一応、良く考えたら、ちょっとたすかったし」

ああ、これが。これがツンデレなんですか。

ひとり顔が熱くなってあたふたする俺をよそに、鍋戦争はとどまりを見せずにつづいていた。

「ほら、臨也」
「わーい」

何事もなかったように、臨也は門田といちゃつきだすし。
だれも今のことに気づいてはいないようだ。

それなら、もう、知るか!再び鍋に集中力を注いだ。
いつの間にかすごく減ってるし…!

「ほら、静雄もちゃんと取らないと食いっぱぐれるよ!」
「お前は食いすぎだろ!ほんとがめついな」

「新羅さんに負けないように頑張るよ!」
「ほほう、子供相手だからって手は抜かないよ」

「幽くん、野菜も食べなさい」
「…はあい」

うるさくて会話にもならいけどなんだかすごくあったかい。


(たまには良いな、こういうのも。)





____

アンケートでは大人気だった門田さんをやっとちゃんと出したいっと思って書き始めたのですが、なにせ門田さん像が私の中で定まっていないものだから申し訳ない…!
もうこうなったらとことんデフォで、新羅に京平呼びさせてしまったのは完全に趣味です…反省



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