高いところが好き。わたしはみる。毎日、学校の一番てっぺんのここから。

たくさんの人がみえるのが好きだった。
それぞれの人が動く、わたしの思ったとおりにだったり、そうじゃなかったり。

でも最近は少し違うの。だってすごくすごくおもしろいのをみつけたんだもん。



「しーずちゃん!」
「うわっ、お前…来んなって言ってんのに」
「べつに屋上はシズちゃんのじゃないでしょ。一緒に食べようよ」

だいたいここはもともとわたしの場所だったの。後から来たのは君の方だよ。

ちっともわたしに気づかないで、突然ここに立ち入ってきた彼は、学校でも有名な怖い人。誰にでも暴力を奮い、しかも手加減無しで、友達もつくらない、誰も寄せ付けない。そんな彼が、ある日突然ここでお昼を食べるようになったのだ。
それでわたしはどうしようか少し迷って、それでね、思いついたの。

一匹狼きどりな彼に取り入って、仲良くなって、彼が油断したところで、べりって捨ててやるの。どうなるかな?壊れちゃうかな?あはは、想像しただけで楽しくなっちゃう、楽しみだなあ楽しみだなあ!それからわたしたちは毎日一緒にお昼ごはんを食べてるんだよ。

「相変わらずおいしそうなお弁当だなあ」
「別に…ふつうだろ」
「あー!卵焼きだ!」
「…いるか?」

ちょっぴり赤くなりながらシズちゃんが差し出してくれる、シズちゃんのおうちの卵焼きは本当においしい。

近づいてみるとシズちゃんには本当に何度も驚かされた。だって噂とはまったく印象が被らないんだもん。
それとね、シズちゃんのことで最近分かったことがいっぱいあるんだよ。例えばシズちゃんはこうして可愛い顔をするとか、ね。


でも、でもね、そんなにわたしに隙を見せるようになっちゃったらそろそろ潮時だよね?

だって人間だもん。
人間は近づきすぎたら駄目になっちゃう生き物だから、これ以上は駄目だから、わたしのこと嫌いになるんだから、


すっかりわたしとご飯を食べるのにも慣れてきた彼に、そろそろハプニングが必要かなって、ちょっと悪い人たちにお願いしちゃったの。シズちゃんを憎んでる人なんてたくさん居たからそれは凄く簡単なことだった。

それはちょっとしたいたずら心だったのに(うそ、本当は、シズちゃんがわたしを嫌いになるなんて耐えきれないから)



 お昼休み屋上でわたしを襲うふりでもしたら平和島静雄は来ると思うな――。

もちろんそんなのは馬鹿を煽るための文句で、何もしなくたってシズちゃんは屋上に来るのだけど。










変なやつがいる。俺のこと怖がりもしないでにこにこして、俺のとなりで飯を食う女。
胡散臭くて、うざったくて、それでも、


油断してたんだ。
ぬるま湯みたいな生活に慣れて、調子に乗っていた。
俺がそんな暢気に過ごして良いわけなかったのに。


いつも通り、屋上につく、昼休みが始まって五分くらいのこと、きっと笑ってあいつが待ってる。今日のお昼ごはんはメロンパンだよとか聞いてもないのに言ってくる、そういういつもの昼休みがはじまるはずだったのに。

「平和島静雄!」
「うわ本当に来たよ!」
「まじで!すごいな」

なんだ、なんだ、なんだ
俺の名前を知ってる?
人が大勢なんて居るはずのない屋上に、ぞろぞろと見知らぬ男が群がっている。


馬鹿だ、俺は馬鹿だ、

知らねえ男がたくさん
臨美が、そいつらに押さえつけられて、腕に、足に、制服に、手が――、


何かを思考する前に、気付いたらぶっ飛ばしていた。
やべぇ臨美は…、よかった、ぶっ飛んでねえ。

くらくらする。今日は体調が悪かった。学校も休むつもりだった。
でも臨美になにも伝えなかったから。いつもなら絶対に休んでたな。でも、良かった、来て。


臨美が目の前で泣きそうな顔をして見ていた。怖かっただろうな。いや現在進行形か。こんな暴力を目の当たりにしたら、怖いだろうな。俺のせいで。 泣かせたくなんか、なかった、のにな。


それでもこんなときばかりはこの力に感謝した。
いくら体が辛くたって勝手に動いてる。息が苦しくて全部痛くたって動ける。

たとえこの力が臨美を怯えさせるだけだとしても、この状況が俺のせいだとしても、いまこの力があることは意味がある。
(でも、もうこいつに会えない、もうこんな目には、二度と、)


あと何人だ?いっぱいだ。

 も、やめ、 !

意識の遠くで臨美の声が掠れたような気がしたけど全てが飲み込まれる。
ごめん、こんなんで、ごめん




 シズちゃんの暴力は止まらないシズちゃんは暴力を止められないそれがどんなにシズちゃんの身体を痛めつけたってそれは止まらない。
何よりも、その力の身勝手さが、シズちゃんを傷つけている、そんなこと、分かっていたのに――。


屋上に居た人たちがどんどんシズちゃんに殴られて蹴られて倒れていく。
「シ、ズちゃん…」
わたしの声なんか届かない。
シズちゃんはすごく具合が悪そうで、息が苦しそうで、それなのに狂ったみたいに殴りつづける。ばかみたいに沢山いる男たちが飛ばされる。足元も覚束ないようなのにシズちゃんは止まらない。
「もうやめて!」
わたしがやとった奴らのくせにわたしの言うことを聞かない。
届かない。






次の日、シズちゃんは屋上に居なかった。待っても待っても来なかった。

もうきっとここには来ない。

またどこか別の場所で一人でご飯食べてるのかなあ。

もうここから見下ろしても、だれも、わたしをあんな風に温かくしてくれるひとなんていない。一度知ってしまったら、もう駄目なんだ。
シズちゃんはいつもそうだったのかな、
こんなにさみしかったのかなあ。




ごめんね、シズちゃん、ごめんね


泣く資格なんか無いのに、涙が止まらない。


 わたしもここでまたひとりぼっちだよ。

















ほとんど落ちかけた西日がさす廊下を、駆け足で、愛しいひとの待つ教室に飛び込む。
机に突っ伏していたシズちゃんがゆっくりとこちらを向いた。


「シズちゃん顔色悪いよ?」
「あ?ああ」
「大丈夫?」
「大丈夫だって…」

わたしとシズちゃんが付き合い始めて、一年が経とうとしていた。

大丈夫とか言って、全然大丈夫じゃなさそう。
ときどきシズちゃんはやっぱりこうして具合を悪そうにしてる。

「うーん、熱はなさそうだね」

シズちゃんの目の前からわざとのぞきこむようにシズちゃんのおでこに手をあてるとシズちゃんが真っ赤になる。
なんだかつられてわたしまで恥ずかしくなっちゃう。しずちゃんのばか。

「体調悪いときは風邪ひきやすいんだから。気をつけてね?」
「おお」
シズちゃんは目を反らして真っ赤になってそれでもちゃんとうなずいた。



好き好き、シズちゃんが好き。
わたしに手を差し伸べて、もう一度、拾ってくれたシズちゃん。

シズちゃんは怪力を持っているくせに、実はあんまり丈夫じゃないの。

今日だってシズちゃんはちょっと具合悪そう。なのに、校門に変なやつらがみえるの。だからね。

「シズちゃん、ちょっと先生に呼ばれてるんだけど、もうちょっと待ってってくれる?」
「おお、気をつけてな」
「ありがとう、一緒に帰ろうね!」

危なかった。わたしと一緒にいるとき、あんな奴らに会ったら絶対にシズちゃんは私を守って無理するんだから。

わたしはこっそり階段を駆け降りる。


「君たちさあ、まさか、シズちゃんに用じゃないよね?」


わたしだってシズちゃんを守るんだ。


大好きだよ、シズちゃん。




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バッドエンドだったのですが、やりきれなくてしかも虚弱感が皆無だったので、無理やり後日談をくっつけてしまいました。
実は葉月ちゃんとオフで盛り上がった設定でした。虚弱攻め好きなので虚弱静雄、ぜひまた書かせて頂きたいです。
素敵なリクエストありがとうございました!



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