何でこんな暑い中走らなきゃいけないんだろうね。
馬鹿だった、サボればよかった。

俺達は炎天下、意味もなく、ぐるぐる、ぐるぐる、ひたすら校庭を走らされていた。あと五周?うわあ、冗談じゃない。


ちょっと具合が悪いと言えばあっさり許可をもらえるだけの診断書はきっちり揃えてあるんだ。ひとこと言えばなんら問題なく見学出来たのに。

どうせ暑いなら同じかって判断が間違いだった。
よし、今度からはぜったいサボろう。
それはまあ良いんだけど。

問題は今だ。
暑い。太陽が、強い日差しが、頭に響く。汗がベタベタして気持ち悪い。なのになんで?身体はじわじわ寒い。
意味が分からない。息が苦しいし、肺が痛いし、視界は霞むし、とにかくよく分からないけど、簡単に言えば、うん、吐きそうだ。

「おい臨也?」
真っ先に声をかけてきたのはドタチンだ。相変わらず鋭いね。
「大丈夫か…?」
大丈夫な訳ないでしょ、どうみても。
でも今止まったら俺、絶対動けなくなるんだって。
「お前顔真っ青だぞ!?」
だから、そんなこと言って何になるかね。何の解決にもならないよね。俺が不快になっただけだよね。
「ちょっと、ひとまず止まれ」
て、ああ、もう、ちょっ、乱暴な!
無理矢理トラックから追い出され、その場に座り込まされてしまった。

「京平ー、臨也ー、どうしたのー?」

暢気に叫びながらこちらに来るのは変態馬鹿医者もどきだ。おーい、おーいって、ああ、うるさい!そんなに叫ぶからだんだん色んな視線がこっちに集まってくる。全くみんな、デリカシーがないね。ちょっとそっとしておいてくれないかな。

これじゃあ――、

どうしても気になるそちらに目をちらって向けると、グラウンドの片隅で一人見学しているシズちゃんは(一度体育中に暴れてからいつもそうしているみたい、) 随分とぼんやりしているようで、こちらの異変には全然気づいないみたい。
よかったって俺が安堵するそばから嫌な予感しかしない会話が聞こえてくる。

「少し休んでれば大丈夫でしょ」
「本当かよ…」
「ちょっと運んじゃってよ、ほら、静雄の隣辺り、ちょうど日影だし」
「え、でも…」
ドタチンは俺のお願いを覚えてくれているらしい、のに、新羅が余計な目配せをする。

「いいから、いいから」
「あ、ああ…」

「ちょっ…!ふっ、ぅ…」
全然よくないって!だめだ、反論しようと声をだすと喉が、胸が、キーンて痛くなってそれどころじゃない。きっと新羅はそれも分かって勝手に話を進めてるんだ。ああもう死ね!
なに勝手に話を進めてるんだ!しかもシズちゃんのところって、
ドタチンも新羅も、シズちゃんには秘密って言ったら了承したくせに、隠す気あるのかお前ら、ちょっとはフォローしようとかさあ!


シズちゃんにだけは見られたくなかった。今日の体育がシズちゃんのクラスと合同なんて聞いてない。そんなこと知ってたら絶対絶対サボったのに。

どんな反応するのかな。
嫌だ嫌だ、どんなんだって想像するだけで吐き気がする。
ドタチンはいつも通り過度な心配と優しさでいつまでも息のととのわない俺の背を撫でつづける。有りがたいけどお陰でめっちゃ目立ってるし。馬鹿医者に関しては何が面白いのかケラケラ笑ってやがるだけだ、ふざけんなよお前、今度あの変な自称妖精に言いつけてやる!まあ新羅に真剣に心配されるなんてそっちの方がよっぽど気持ち悪いけど。
とにかくなんとかして欲しい。
呼吸はちゃんと出来ているのに息が苦しくて仕方ない。どうなってるのこれ?
「ふっ、…い、き…でき、なっ」
「無駄な抵抗をするからさ。ほら、大人しくしてなよ。たぶん治まるから」
お前は何様だよってムカつくけど新羅のこう言うことに関する発言は外れないので仕方がない。
でもシズちゃんには、嫌だ!
必死にドタチンにやだやだアピールするのに全然通じない。それどころか軽々と持ち上げられてしまう。それってどうなのかねえ。
そう広くもないグラウンドではすぐにシズちゃんのところについてしまう。腹をくくる暇もない。

「臨也…?」
ああ、やだやだ。
鈍感お馬鹿さんの登場だよ。
「なんか具合悪いみたいだからさ、下手なことしないかここで見張っといてよ」
「臨也をよろしくな。臨也、無理だったらすぐ言うんだぞ。無理しすぎたらまた前みたいに大変な…って、あ」

どたちんー!君は何をしてくれるのかな!前みたいにって…!今の素晴らしいフォローのおかげで完全にバレたよ!?さすがのシズちゃんでも色々と気づくよ!

シズちゃんはただ呆然とこっちをみて立ち尽くしているみたいだった。

もういいや。過ぎたことはしょうがない。これで本当にバレちゃったんだ。やっぱり今まで通りにはいかなくなるのかな。シズちゃんは根がまじめだからもう俺とは喧嘩とかもしなくなるのかな。いや、俺が怒らせたらシズちゃんは喧嘩せざるおえないだろうけど、そのあと傷ついちゃったり?そもそも、優しいシズちゃんはきっと――、

シズちゃんの顔が見たくなくて、膝に顔を埋める。背中を丸めてる方が呼吸が楽だしね。うー、自分のおでこが熱い。
シズちゃんが隣に座ってもぞもぞと動く気配を感じるけれどよく分からない。
沈黙が流れる。あれ?なんか静かだなあ。

「…水いるか?」
「へ…?」

第一声がそれ?それもずいぶんと、そっけない声。何だか拍子抜けしてしまった。

正直助かる、から、もらうけど。

「…くださ、い」
「ん」

シズちゃんは大してこっちを見ないままで、もとから持ってきていたのだろう、飲みかけのボトルを寄越してまたそっぽを向いてしまった。
何を考えているかさっぱり見えない。シズちゃんのくせに。
ぬるくなった水が喉を通ってゆく感覚が心地よい。息が苦しいのは全然収まらないけど異様な熱は少しだけ退いていくような気がした。


しばらくじっとしていたら新羅の言う通り、本当にだんだん治まってきた。さすが新羅、いっそ気味が悪いね。
まだ苦しいことは、苦しいけど、普通にふるまえないほどじゃない。
それはよかったんだけど。

シズちゃんが何も言わない。むしろこっちを見もしない。俺なんてここに居ないみたいだ。
それはすごくありがたいことで、大丈夫?とかそういう聞きあきてる、というか惨めになる、言葉がかからないことはすごく喜ばしいことで。

その筈なのに、何でこんなにざわざわするんだろう。


「何も言わないの」
「……」
「つまんないなあ」

シズちゃんだからだ。
なんなの!シズちゃんなら、ごてごてに心配してくるんじゃないかとか少しでも思ってた自分が馬鹿みたい。
最悪だ。これは一番、嫌な、パターンで。
シズちゃんは俺のこと面倒臭くなったんだ。

そうだ、よく考えれば俺とシズちゃんとは喧嘩しかしてないんだから、友達ですらないんだから、喧嘩をしなくなったら、俺とシズちゃんは、終わりなんだ。
いや、だから、始まってもなかったんだ、何も。
分かってるはずなのに、

「シズちゃん…」

だめだ、普通に呼んだつもりなのに声がふるえてる。息苦しさが増して肩が震える。
もう駄目だ。晒したくないところばかり、見せてしまって、それなのに全然自分を押さえられない。なんでなの?

もう駄目だ、って思ったのに

「…何泣きそうな顔してるの、馬鹿」


シズちゃんがやっと俺のことをみた。泣きそうな顔でこっちをみてた。
俺の方に微かにのばしかけて、そのまま固まった腕が、震えている。



「臨也…」


馬鹿だなあシズちゃんは。
そっか、シズちゃんは何も言えないんだ。
馬鹿だ馬鹿だ本当に馬鹿だって思うのに、心底ほっとしている自分が一番馬鹿みたい。


「シズちゃん、ぎゅーして」
「は!?」
「そうしたら治る気がする」

シズちゃんばかりが苦しそうな顔をするから俺は面白くなってきちゃった。

「ほら、」
大丈夫だから

こどもをあやすように言えば、おずおずと手がのびてくる。

シズちゃんは本当に怯えていてすこし可哀想だけどやっぱりすごく愛しかった。





「全く世話が焼けるね」
「ん?うわ!あいつら何してんだ!」
「抱擁だよ、ほーよー」
「そりゃ見りゃ分かるけどよ…こんなところで…」
「ねえ。ああ、やだやだ!早く俺も帰ってセルティーをにゃんにゃ、ふご!」
「お前は黙ってあと1周!」



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あらゆる人が迷子…
そして臨也があんまり苦しんでない!ごめんなさい!
静雄さんと付き合う前、しかも病弱秘密ということで、いつもとは違った雰囲気になった…かな?

こんなものでよろしかったでしょうか…!定番の体育ネタ!いつかやりたいと思っておりました。さらに初の来神4人組書きで私はとても楽しかったです!
素敵なリクエストをありがとうございました!



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