※family設定、中学生の二人


ぼおっとする。頭にもやがかかっているみたいなのに断続的に締め付けるような痛みがあった。
動こうとするのも、息をするのもしんどくて、ソファの隙間に顔をうずめた。そうしていないと息が出来ない錯覚を自覚してしまう。
薬をのんでから二時間はとくに辛い。
だから特別ひどい時以外、この薬は封印してあった。それなのに。薬の減りを見てまた別の恐怖に身体が縮こまる気がした。突発的な吐き気に指先が震える。嫌だ、あまり悪いことは考えたくない。



こういう時に限ってシズちゃんは早く帰ってきたりするものだから困る。何かを取り繕う余裕もなくて、がちゃりと無防備に開かれる扉をただ見ることしか出来なかった。

沈黙が続いた。シズちゃんも流石に見ただけで現状くらいは分かるようになってしまったらしい。 固まった無表情のままシズちゃんがこちらにずんずんと進んで来るので、何か面白いことの一つでも言ってみようと思うのにどうにも言葉が出てこない。

のそりとした動作のまま、シズちゃんの指が薬を掴んだ。俺の命綱。

何するの、それが声になる前に、シズちゃんがものすごい勢いでそれを床に投げつけた。そのまま流れるように踏みつけられそうになる。

「止めて!」

ちっとも動かなかった身体から意識よりも先に声が出ていた。絞り出した声は少し掠れていて、押し出されるように涙が零れそうになる。恐怖だ。脳みそにあるのはそれだけだった。馬鹿みたいだって分かってる。でも手放す訳にはいかないじゃないか。


シズちゃんが震えていた。俺よりも苦しそうな顔でだ。

ここまでシズちゃんを追い詰めてしまうことが、こんなにも簡単に追い詰められてしまうシズちゃんが、なによりも苦しかった。



「ごめんねシズちゃん」

そんなことしか言葉にならない。それでもシズちゃんはやっと目の色が戻った。

「ちがう、ごめ、んっ」

その先の言葉は嗚咽に飲まれていってしまう。

俺の代わりにシズちゃんが泣いてくれるから、俺はこうしていられるんだって思ったらやっぱり俺も少しだけ泣きたくなった。



「何かいるか」

無理矢理の笑顔で、少し掠れているけどさっきとはちがうとびきりの優しい声でたずねられる。それがあんまり愛おしいので俺だって応える。


「シズちゃん。シズちゃんが欲しい」

腕ををのばしてシズちゃん一人分に広げた。
ぎゅうぎゅうに抱きしめてもらう。シズちゃんの体温で身体の芯が溶けていく気がした。







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あとがきは日記にて。
リクエストありがとうございました!



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