雨の重たい音だけが部屋を満たしていた。
どこか遠いその音は現実味がないようで、それでも確実に自分を憂鬱にさせる音だった。


通る馬車の音もない夜更けには、どんな物音もひどく響いて聞こえる。


耳障りな音だ。鬱陶しい。

自分で発しているくせに、他人事のようだった。それは、こんな現実から目を背けるために得た自己防衛の方法だ。

夜通し際限なく続くこの咳に付き合わされてもう何日になるのだろうか。
慣れてしまった咳はもいういい。
ただうるさく響いてしまうこの音を、どうか、だれの耳にも届けないままに。それだけを望むのだけれど。

浮遊感がまとわりつく。手先や足先の感覚が、分からない。

咳をする度、合間にやっと息を吸おうとする度に、みっともなく体が震え肩が跳ねる。荒い息をどうにも整えることができない。



それは突然、扉の開く音だけが響いたように聞こえたから、よっぽど自分の感覚は鈍っているらしい。足音すら聞き取れなかったのだ。
レイムがそこに居た。ランプは手元だけを照らし顔はよく見えないけれどその姿は紛れも無く彼だった。


「まったくお前は……っ」


幻覚のようにその姿が揺れる。

「なっ、…っ」


なぜあなたがここに、


問いただそうにも咳に飲み込まれ言葉にならない。無理やりに音をひねり出そうとしたせいで、余計に気管支が締め付けられて、思わず上半身が折れる。いくら咳き込んでも治まることがない。



「廊下にまで響きわたっていたぞ、その音」


そんな…っ

息を呑むとレイムは顔を歪めて言った。

「嘘だ」

しまった。こんなにも簡単に騙されるなんてどこまで思考が鈍っているんだろう。

(なぜ来たんだ…)

言葉にならずともレイムには伝わったようだった。呆れた顔が返ってくる。

「お前は隠せていたいたつもりか」

近づいて来たレイムは、ベッドへ腰掛けた。スプリングの跳ねる感覚が浮遊感に交じる。


前髪を強く引っ張られ、意識がレイムに傾いた。

「酷い様だ」

薄茶色の瞳にまっすぐ射られる。
乱暴な仕草の割に、その目は怒気ではなく怯えの色を帯びていた。ああ、また不安がらせてしまったのだ。
憂慮の面持ちを彼は隠せている気でいるのだろう。彼の甘いところだ。


「ほっとけ、ば、いいものを…っ、君は…、本当に、…おせっ、かいな…人ですネ」


安心させるにはそれしか方法が思いつかなくて、精一杯の悪態をついてみたのに、彼の表情は歪むばかりだった。



「シャロン様を今すぐここへお連れしてやろうか」

「な、にを…」

「前にも言っただろう。シャロン様の悲しむ姿など見たくないんだ。だからいいか、もう少しまともなふりが出来るようになるまではここを出るな」

このままでは気づかれるのも時間の問題だったぞと肩口に私を寄せながら呟いた。
そんなにひどかっただろうかと、鵜呑みに思考してからすぐにそれは彼の優しい嘘に過ぎないことに気づく。

「私はお前の心配など欠片もしていないのだから、私の前でくらい弱味を見せたって良いだろう」

君って人は本当に、どうしようもないくらいの甘っれだ。
けれどその拙い虚勢を無下にするほど私も無粋ではない。


「ランプの灯を…、消して下サイ」

夜暗に紛れられる内なら君の優しさに便乗しようか。


「レイム」

やっとのことで吐き出した言葉にようやく彼の力が抜けるのを感じて、自分は一体どうするべきだったのか、途方に暮れる。今度はその名を真っ先に呼べばよいのだろうか。
柄にもないことを考えながら、目を閉じた。



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中2ワード連発ですみません><レイブレがぐらぐらですみません><別人ですみません><
なんだかとても違う気もしますが書いててとても楽しかったです!大変おそくなりました、リクエストありがとうございました!^^








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