14


小鳥たちがさえずり始めた早朝にナマエは目を覚ました。もう少し寝れるかと目を瞑り二度寝をしようとする俺に、彼女は身体をすり寄せて俺の唇に触れるだけのキスをした。ゆっくり目を開けて彼女を見ると相変わらず無表情であるが、どことなく暖かな印象を受ける。
そんなナマエの頬を撫でれば彼女は心地よさそうに目を細めて尻尾をパタパタと振った。

「特別はいつまでだ?」

一瞬彼女の言葉の意図がわからなかったが、昨晩性欲を懸命に抑え込もうとする彼女に今だけは特別だと言って抱いたことを思い出した。

「この洞窟から出るまでな」

そう言うと彼女は嬉しそうに尻尾をパタパタさせ俺に身体をピッタリとくっつけた。俺の胸元にグリグリと額を擦り付けて大きく深呼吸をした。

「何度も交わりたいと思えたのはこれが初めてだ…」
「…そうか」

ナマエの頭を撫でてやる。俺だって彼女と同じ気持ちだった。こんなことになるなんて3年前の俺は予想だにしていなかった。まさかナマエとこんなにも体の相性が良かったとは。
鍾乳洞の高い天井を俺たちは見上げた。様々な鉱石が光を発して星のように輝くそれは神秘的で見ていて落ち着く。しばらく静かな時間を過ごしたところでナマエが体を起こした。

「泳いできていいか?」
「好きにしろ」

ナマエは俺の返事を聞くと一糸纏わぬ姿のまま鍾乳洞の奥にある湖に飛び込んだ。水面から顔を出して彼女は俺に手を振って水の中に潜っていった。
俺も起き上がり昨日脱ぎ散らかした彼女の服を拾い集めた。昨日の情事を思い出すだけでなんとも言えない気持ちになる。俺は無意識に拾った彼女のシャツに顔を埋めていた。

「……獣臭ぇ」

帰ったら風呂に入れねばと考えているとザブンッとナマエが泉から出てきた。慌てて彼女のシャツから顔を離し、もう水浴びはいいのか?そう訊こうとナマエに目をやると、彼女の手には黄金に輝くネックレスや宝石が散りばめられた短剣、ダイヤやエメラルドなどがあった。

「おい、それをどこから…」
「そこの方に小さな船があってその中にたくさん入ってた。ローはこういうの好きだろう?」

そう言ってナマエはそれを差し出し髪に水滴を滴らせて微笑んだ。尻尾を振るたびに水が飛び散る。褒めてくれと言っているのは明白だ。
俺は湖の淵に立ち底の方を覗き込んだ。少し見づらいが確かに難破船のようなものがある。能力を展開し近くにあった石と難破船の位置を入れ替えた。
ザバンッと難破船の中にあった水が辺りの地面一帯を濡らした。船は小型のヨットのような作りでかなり老朽化している。腐って崩れた船体からは金銀財宝が水と一緒に溢れ出した。
コイツは思わぬ収穫だ。思わず笑みが溢れる。

「よく見つけたなナマエ」

そう言ってぐしゃぐしゃと両手でナマエの頭を撫で回してやりキスをしてやれば彼女ははち切れんばかりに濡れた尻尾を振って俺に抱きついてきた。よっぽど嬉しいのか噛みつくように俺の唇を吸いついた。褒められたことに興奮しているのか何度も俺の首元に額を擦りってくる。俺はそれを受け入れて彼女の頭をめいいっぱい撫でてやった。犬みたいだがナマエらしく可愛らしい。

「まだ底の方にも宝箱がいくつかあったから取ってくる!」

そう言って彼女は再び湖に飛び込んだ。





「帰りたくない…」
「そう言うわけにはいかねぇだろ」

駄々をこねるナマエに俺は服を来させた。彼女に上着を着せてた時に気がついたが彼女の首元や胸元は昨晩俺が衝動にを抑えられずに付けたキスマークが至る所についていた。後先考えずに付けてしまったことを俺は少し後悔した。こんなもの船員たちに見られたらなんといわれるか…。かといって彼女の着ているシャツでは首元までは隠しきれそうにない。

「ナマエ、俺がお前を抱いたことは船員たちには秘密だ。わかったな?」
「…わかった。言わない」
「首の痣のことを聞かれたら虫に刺されたとでも言っておけ」

そういうと彼女は首を縦に振った。物分かりが良くて助かる。大量の金銀財宝はあとで船員の誰かに取りに来させよう。袋も何もない状態で俺たち2人でこれを運ぶには何往復かする必要がある。オペオペの実の能力を使ったとしても隣りの島まで運ぶには骨が折れる。
ナマエの手を引き洞窟から出ようとした時、彼女は立ち止まった。どうしたと聞けば彼女は目を伏せて口を尖らせた。

「……ここを出る前に…ギュってして欲しい…あと、ちゅー…」

この洞窟にいる間は特別だと身体の触れ合いを許すと言ったことを気にしていたのだろう。先ほど帰りたくないと言った意味もわかった。俺が手招きをするとナマエは俺に飛びついた。頬に手を添えて唇を啄む。しばらくして彼女は名残惜しそうに俺から体を離した。
「帰る」そう小さくつぶやいて俺の服の裾を掴んだ。俺はその手を握ってやり赤い花に気をつけつつ隣りの島へ渡る浜辺へと向かった。


昨日の雨が嘘のように今日は雲ひとつない晴天だった。隣りの島に続く潮が引いてできた白い砂の道は絵になるほどに美しい。ナマエの手を引きその道を進んだ。隣りの島の砂浜がはっきりと見え始めるとそこにはペンギンとシャチとベポが俺たちを出迎えた。

「キャプテン!心配したんすよぉ!すげぇ夕立あったし夜になっても帰ってこねぇしで」
「だから子電伝虫持っててくださいって言ったでしょ」
「村の人らもナマエのこと心配してたぞ」
「ん…それは悪いことをした…」

俺とナマエは三人から軽い小言を受けた。たかが1日帰らなかっただけでそこまで心配する必要もないだろうに。俺たちはこれでも億越えの検証首なのだから。

「それよりあの島でナマエがお宝を見つけた。結構な量があって持って来れなかった。宝の場所まで道のり図を書いてやるから後で船員何人かで取りに行かせろ。」

そう言うと3人は目を輝かせた。そしてナマエにすごい!よくやった!と褒めちぎられ3人に頭を撫でられたナマエはまたもご機嫌だ。みんなにも報告して褒めてもらおうぜ!とベポはナマエの手を引いてそのまま停泊している船の方にと走って行った。

俺もベポとナマエの後を追うように船に向かう。道中シャチがニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んできた。キャープテン!だなんて含みのあるようにいやらしく微笑んだやつの表情は何かを言いたげだ。なんだとシャチに問いかければ。彼はクククッと笑った。

「昨夜はお楽しみでしたか?」
「……なんもねぇよ。宝を見つけて湖から引き上げてたら干潮の時間に間に合わなくて野宿しただけだ」
「じゃああの首筋の痣はなんなんすか?」

目敏くナマエの首の痣を見つけたのだろう。こいつらとは長い付き合いだからこそ、他の船員よりもこう言ったことで揶揄されることが多い。船長と船員という立場でもそれだけ心を許せる仲間だ。それでもこいつらは口が軽いからナマエとのことを話したらあっという間に船員全員に噂が広まってしまうので喋りたくはない。

「虫に刺されたんだろ。あの無人島は虫が結構飛んでいたから」
「へぇ虫刺されですか…ふぅん?」
「じゃあその噛み跡なんすか?どう見てもナマエのに見えちゃうんですが?」

ペンギンはそう言って生暖かい目で俺を見ながら自分の首を指先でトントンと叩いた。あ?と一瞬彼が何を言っているのか理解できなかった。ナマエ噛み跡?ハッとして俺は自分の首を押さえた。ナマエのことばかり気にかけていたが、どうやら彼女も俺にキスマークをつけていたらしい。そればかりか噛み跡まであるとは…確かに昨晩たくさん甘噛みされていたことを思い出した。まさか跡が残るほどとは思わなかった。
思わず自分の首に手を当てた俺の行動から図星だと感じ取ったのだろう2人はヒューヒューと楽しそうに笑った。こいつら…!
赤くなった顔を奴らに見られたくなく俺は帽子の鍔で顔を隠した。

「やっと手出したってことでいいんすね!?」
「やっとってなんだ。やっとって」
「キャプテンずっとナマエのこと大好きだったじゃないですか」
「好きじゃねぇ。ペットみてぇなもんだろう」
「キャプテンも素直じゃないんだから!」
「自分よりもでかい女もアリでしょ?」
「犬耳がツボでしたぁ?」
「お前らその口二度と喋れねぇように縫い付けるぞ!」

俺がそう言うと2人は笑って船に向かって走り出した。待ちやがれ!と俺は怒って2人を追いかけ走り出した。

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