ちょい待てちょい待てちょい待て。といくら繰り返したところで目の前の光景が変わるわけでもないわけだが、とにかく繰り返そう。ちょい待てちょい待てちょい待て!

(ちゃちゃちゃっチャイナが男と二人で仲睦まじげに歩いているぅぅ!)

まさに鈍器どころかドンキホーテまるまる一軒を頭に打ち付けられたような衝撃である。いや決して話を盛ったわけではなく、マジで。なにこれ、打たれ弱いサディスティック・マイハートが粒子レベルに粉砕されちまったぜいオー・マイ・ゴッド!
かくして俺はなぜか電信柱の裏にさながら蝉のごとくへばり付いて二人の様子を見守っている。いや見守ってなどいない、言わば相手の男を刺し殺さんばかりの殺意を送っているのだが気付かれていないのだ。ちくしょう羨ましい死ね!と地団駄を踏んだところで二人は楽しげに会話を弾ませながら移動して行く。

(あんにゃろ、逃がしてたまるかィ!)

サディスティック星のプリンス沖田総悟の名にかけてあの男ただで済まさでおくべきか。蝉はへばり付いていた電信柱を離れ、次なる宿り木を求めさまようように飛んだ。だがチャイナに見付かってしまっては元も子もへったくれもない。そろりそろり、二人の後ろ姿を妬ましげに睨みつけながら建物やブロック塀の陰に身を潜める。睨みつけつつ俺はじっとりと男を観察した。
金髪オールバック、白い肌、くわえ煙草。遠くてはっきりとは見えないがおそらく顔立ちも上々。忘れかけていた悔しさがUターンして舞い戻って来て再び地団駄踏んだ。だっふんだ。

つーかあいつマジ誰。どこかで見たことあるような気がする、とかそんなん今さらどうでもいい。とりあえずチャイナとデートなんてふざけやがってマジ羨ましい死ね!俺なんていまだに手を握ったこともないどころか笑顔を向けられたこともねーんだぞ。目が合えば罵倒の嵐、さらにヒートアップする殴り合い。いつしか喧嘩友達の烙印を押され挙げ句の果てに「お前なんか大嫌いアル。」あれ、目の前がぼやけて来やがった。ちくしょう、ぜってーあの男捕まえて血祭りに上げてやらァ。
とは言えここで二人の間に割り込み「どきなァ、こいつは俺の女でィ」と格好良く姫の奪還、なんて甘い展開は所詮妄想上の話である。脳内でシミュレーションすることに関してはシミュレーション選手権で日本代表を勝ち取れるほどの実力はあるもののそれを行動に移すことが出来ない俺のチキンハートが憎い。出来ることなら今すぐ叫びたい、「チャイナァァ、カムバックトゥーミィー!」最初から俺のものではないのは熟知している。ゆえに諸君、皆まで言うな。

「おい、総悟」
「っ!」
「何してんだこんなとこで。蝉の真似か?」

不意に後方から声をかけて来やがったのは(不本意ながら)部活の先輩である憎き土方コノヤローだった。電信柱に張り付いているところを見られるとは沖田総悟一生の不覚。死ね土方。

「おい聞こえてんぞ」
「マジですかィ死ね土方」
「よーしテメーのその軽い脳みそ叩き斬ってやる」

殺気を放出させながら物騒なことを言ってのける土方の一太刀(竹刀)をひらりと躱し、その腹部を背後から抱き込んで「エビの真似!」どごっ。後頭部から豪快に地面とごっつんこした土方コノヤローはしばらく戦闘不能になってしまった。

「邪魔しやがって」

唾を吐き捨て再びチャイナの尾行を続けるべく踵を返す。しかしそこには閑散とした商店街が広がるだけでチャイナの姿は忽然と消えていた。

「……あ」

しまった、馬鹿の相手してるうちに見失っちまったァァ!と己の愚かさを悔やんで本日三度目の地団駄を踏んだところで目を回して寝ている土方コノヤローを蹴り飛ばす。テメーのせいだよバカヤローォォ!

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