長い間疎遠気味だった兄貴が突然家に帰って来たのは一昨日の夜だった。パピーと大喧嘩して出て行ったっきりだった兄貴は帰って来て早々に何食わぬ顔で玄関をくぐり抜けると、目を真ん丸に見開いている私を見て「久しぶり」だとか「元気だった?」なんて挨拶など一切無しに、

「俺、結婚するから」

と爆弾発言をいきなり投下しやがったのだ。カチンコチンに固まった私の横を通りすぎる兄貴からはふわりと女の匂いがした。それが嘘でないことの証だと主張するようなそれは鼻の奥に纏わり付いて離れない。うざったい。どうして急に、結婚だなんて。
案の定パピーは驚いて目を真ん丸に見開くだけでなく、口をあんぐりと開けたまま阿呆面を全面に貼付けている。ヅラまでずれている始末で情けないことこの上ない。

「嫁は明日連れてくるよ。式は一週間後に挙げる」

「そ、そ、そうか」

「こんなんでも一応家族だし、それだけ伝えに来た。それじゃ」

兄貴はパピーに背を向け、私の横を通って家を出て行った。すれ違った瞬間、やはりふわりと女の匂いが鼻をつく。私の知らない女の匂い。
ぱたんと静かに閉められた扉。なぜだか急に、目頭が熱を持った。


「兄ちゃん……」


久しぶりに呼んだ名前は届かない。ずっと伸ばしていたのに最後までそれを掴むことはなかったのだと、私はその時初めて知った。



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