05 空いた夢現重たい瞼を持ち上げると、見慣れた小汚い天井がそこにあった。ぼんやりと視界はおぼつかない上になんだか頭が痛い。私は一体どうしたんだっけ、なんでここにいるんだっけ。と考えてみれば灰色に滲んで行く空が脳裏を駆けた。同時に、にこりと微笑む女の顔も。
「あら、目が覚めたのね。よかった」
「……姐御?」
掠れた声が小さくこぼれる。姐御がひんやりと冷たい手のひらを私の頬に置いた。
「やっぱり、まだ熱があるみたいね」
「……大丈夫アル」
「ううん、まだ寝てなきゃ。病気のときぐらい甘えていいのよ?」
──病気。
その言葉がどこか突き刺さって、表情が曇った。やっぱり、私病気なんだ。
「……どうしたの?」
心配そうな姐御の顔がゆっくりと近付く。なんだか目頭が熱くなった。あの綺麗な女の人と腕を組む沖田を思い出して、また心臓が痛くなったから。
「……姐御、わたし、病気アル……」
「え……」
「なんかおかしいネ。あいつのこと考えるたび、心臓が痛くて痛くて死にそう」
「……。」
姐御は目を丸くして驚いているようだった。けれどすぐにいつもの優しい笑顔に戻って、ゆっくりと私の頭を撫でる。
「何かあったの?」
「……別に何もなかったネ。ただ、沖田が女の人と腕組んでたヨ。それ見たら急に痛くなって……。私、死ぬのかな?」
ぶわ、と涙が溢れた。姐御は大丈夫、と笑って頭を撫でてくれるけど、痛くて痛くて死んでしまいそう。
なぜか浮かぶのは沖田の顔ばっかりで、それと同じぐらいあの微笑みが付き纏う。私はあんな風に綺麗に笑えない。そうやって考えたらまた悲しくなって、やっぱり痛かった。
「神楽ちゃん、心配しなくても大丈夫よ」
「……姐御ぉ……」
「病気なんてすぐ治してあげるからね」
頼もしいその笑顔は、まるで太陽みたい。きらきら光って不安なんてどこかに飛んでく。不思議と、涙も渇いた。
「……うん」
「まずは栄養つけなくちゃ。ほら、卵が上手に焼けたのよ」
「……う、うん……」
その太陽の強すぎる光に焦がされた可哀相な卵から目を逸らしつつ、私はゆっくりと襖を開けたのだった。
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