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03 見えた冷笑



いつもより早く公園に行ったら、今日は先に憎いアンチキショーがベンチに座っていた。こんな朝っぱらからサボりやがって、ほんとこいつどうしようもないマダオアルな。暇だから後頭部に蹴りでもぶち込んでやろうと背後に回る。けれど、その背中がいつもより小さく見えて、振り上げていた足を止めた。


(何ヨ、溜め息なんか吐いて。こいつらしくないネ)


昨日までのそいつとは少し様子が違う。だから喧嘩吹っかけるのはやめて、幸せが逃げると忠告してやったのだ。そしたらこいつは酷く気の抜けた顔をした。


「あのさ、しばらくそこに立っててくんね」


なんて、消耗しきった声で言うから。口では嫌だと言い切ったが、体は素直にそこに立ち尽くす。
何かあったらしい。いつになく様子がおかしかった。こいつがこんなに弱るような悩みなんてあるのだろうか。あるとしたら──。


「さては女アルか」


冗談のつもりだった。むしろ嫌味を言ってやったぐらいに思っていた。こいつは女なんかに縁がないと思っていたから、「そんなもん芋侍にゃ必要ねえ」ぐらいの返事を予測していた。それなのに、返ってきた返事はまるでその存在を肯定するかのようなもので。

ぢくり、と何かが突き刺さる。


「チャイナ?」


ぱちりと褐色の瞳が瞬いた。どう反応すればいいのか分からず、ただ何となく「大丈夫アル」と笑うつもりで開きかけた口は、「総悟さん!」と彼の名を呼ぶ声に遮られて閉じられた。

そうして現れた女は、どこぞの姫様かと疑ってしまうほどの美人で。その美人が沖田の腕に絡み付く。


(……え)


ずきり。胃だか肺だかよくわからない場所が急に重たくなった。しかもなんだか目頭は熱くて、沖田は笑ってて、なぜだかよくわからないけど痛くて痛くて触ってほしくなくて、──いつのまにか私は走り出していた。






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