空はキラキラ星の海。周りにはたくさんの花が咲いていて、小鳥の囀りや川のせせらぎが聴こえてくる。わたしはドレスを身に纏い、振り向くと素敵な王子様がわたしに微笑むの。 「そんな場所でたまごかけご飯を食べたいネ」 「何でだよ。」 コーヒーをくるくると掻き混ぜながら沖田は呆れたように頬杖を付いた。神楽はそんな沖田に小首を傾げる。 「なんか素敵ダロ?」 「前半は素敵だったかもしれねーけど後半ミスマッチすぎんだろィ。なんでそこでたまごかけご飯?」 「ふりかけご飯でも、まあ許してやろう」 「許してやるも何もオメーは根本的にズレてんだよ」 でもまあ、王子様にとっては安上がりで助かるだろうねィ。あ、でも食う量がハンパねぇんだった。なんて存在するはずもない王子様の未来を憂いながら沖田はコーヒーカップに口を付ける。 土方にマヨネーズをぶちまけ、すたこらさっさと逃げ去って約20分。自転車に二人乗りでやって来たのは近くのファミレスだった。神楽は鞄を学校に置いてきたため財布がなく、半強制的に沖田が奢ることになる。無我夢中でフライドポテトを口の中に詰め込んでいる神楽を眺め、沖田は携帯を握った。 ──カシャッ 「むごっ!?」 「ぶっ、ひでー顔」 携帯を眺め、沖田が吹き出す。ディスプレイに映し出されたのはフライドポテトを詰め込みすぎてパンパンに頬が膨れ上がっている幸せそうな顔をした……、いわゆる間抜け面をした神楽だった。 「け、消せっ!」 「保存。」 「消せやァァァ!!」 なんてやり取りの末、最終的に携帯逆パカなんて暴挙に走りかけた神楽を寸前で止めた。なんとか携帯は無事に沖田のポケットに収まり、フライドポテトも神楽の胃を満腹とまではいかなくとも満たしたようである。気が付けば二人はダラダラと2時間近くファミレスに滞在していた。 「そろそろ帰るかィ」 「そうネ。昼飯おごってもらえたし満足アル」 「この糞女」 嬉々としてファミレスから出て行った神楽を罵り、沖田も会計を済ませると神楽に続いた。 時刻は2時過ぎ、5限目の途中ぐらいか。今から学校に引き返すなんてことは有り得ないが、これから帰宅するのもつまらない。 「チャイナ、これからどうする?」 「どうするって?」 「家に帰るか、俺とどっか行くか」 「帰るに決まってるアル」 当然だろ、と言わんばかりに神楽は即答した。 「お前と遊び行くなんて、考えたらゾッとするネ」 「あーそうですかィ」 べえっと舌を出した神楽に沖田は額に血管を浮かべながら引き攣った笑顔を返した。そのまま自転車に跨がって滑るように坂道を下って行く。 「じゃあな糞ガキ。できれば苦しんで死にやがれ」 「オメーがな糞ガキ!」 中指を天に向け、沖田の姿が見えなくなると同時に神楽は帰路を歩き始めた。空は青くてお日さまはギラギラと輝いている。 ──そしてこの後、神楽は自分が選択を誤ったことを知ることになるのだった。 普段と変わらぬ帰り道、神楽はいつもと同じように曲がり角を曲がり、坂道を上った。住宅街を抜けて空き地の野良猫と戯れ、そして事件は起こったのだ。 ──ドシャッ…… 「……?」 何かが倒れる音が響いた。次いで血の臭いが鼻孔をくすぐる。神楽は足を止め、薄暗い路地を見つめた。人の足が見える。ひとつは地面に転がっていて、もうひとつは……。 「あれ、神楽だ」 ──心臓が、止まる気がした。 直接会うのはいつぶりだろうか。もう何年も会って居なかった彼が、なぜか目の前にいる。けれど喜びは湧かない。神楽は自分の背中が急激に冷たくなるのを感じた。 ただ、恐怖が蔓延る。 「……神威……」 「久しぶりだね、神楽」 にこにこと微笑む実の兄は、足元に転がっている人間を蹴り飛ばしてこちらに近づいて来た。逃げ出したい衝動に駆られたが、足が竦んでしまったらしくまったく動かない。 「どうしたの、学校は?」 「……」 「ああ、サボったんだ。いけない子だね、神楽は」 にこりと吊り上がる神威のその口元が、神楽の恐怖心を更に煽る。ああ、どうして今さら。 「いけない子には、お仕置きしなくちゃね」 くすりとこぼれた微笑みが、始まりの合図だった。 . 恐怖との再会 ▽ |