ぶえっくしゅい!と隣を歩く糞女がぶっさいくなくしゃみをしたのはこれで三回目。風邪をひいてしまったのだろうか、と一瞬思ったのだがどうやら違った。こいつは馬鹿だから風邪などひかないはずだった。

「オイだれが馬鹿アルカ、風邪ぐらいひくに決まってんだろぶっ殺すぞサディスト」
「大丈夫かィ安静にしてなきゃ悪化しちまうぜィやったぜ死ね糞ガキ」
「お前は私を心配してるアルカそれとも嘲笑ってるアルカ」
「やだなあ、もちろん心配してるに決まってんだろィ」
「とか言いながら現在進行形で川に突き落とそうとしてんだろがぶっ殺すぞ糞ガキャ!」
「げふっ」

フルスイングされた番傘は見事俺にクリティカルヒット。ばこーんと空に打ち上げられ、気が付いたら地面にごっつんこで俺の周りをひよこさんやらお星さまがぴよぴよきらきらぐるぐる回る。

「いってえ……」
「自業自得アル、ざまーみろ糞ガキ」
「あんだとコラ川に落ちて死ね」
「テメーが死ね」

なんて同じような口論の悪循環が続き、どっちからともなく視線を逸らした。途端にぶえっくしょい!と再び可愛さの欠片もないくしゃみが飛び出す。

「もうちょい可愛く出来ねーの、それ」

指摘してみれば不機嫌そうに眉間を寄せるそいつの鋭い眼光がじろり。

「うるさいアル。くしゃみなんて可愛かろうが何だろうがバイキン撒き散らしてるのには変わりないネ。お前に寄ってくる女もみんなそうヨ、お前はバイキンに囲まれてるだけネ」
「チャイナさん、そいつァ新しいヤキモチですかい」
「ふざけんな糞ガキ自惚れてんじゃねーヨ」
「台詞のわりには顔真っ赤だぜィ、可愛いこって」
「かかか可愛いとか言うなァァ!」

ばこーん、再び番傘が俺を殴り飛ばす。頭から地面に落ちた俺を蔑むような目で見下ろしながら(でもちょっと顔が赤い)チャイナは俺の胸倉を掴んだ。いや痛い痛い痛い。いま頭打ったばっかなんだからちょっとぐらいインターバルくれてもいいんじゃねーの?

「お前ナメてるとぶっ殺すアルぜ、殺し屋に転職したろかコラ」
「図星つかれたからってそりゃあんまりだろィ」
「図星じゃねええ!お前みたいなのに誰がヤキモチなんか妬くかボケェ!」
「だから顔が赤、」
「ぶえっくしょい!!」
「ぎゃあああァァきたねエエ!てめっ目の前で鼻水飛ばすな糞女!」
「ちーんっ」
「スカーフで鼻かむなコラ死ね!!」

ぎゃあぎゃあと路上で掴み合う俺達をじろじろ見ながら人波は流れて行く。好奇の目、軽蔑の目、人によって様々。そんな中に憤怒の色をぎらつかせた瞳をひとつ発見し、ぎくりとしたときには手遅れだった。

「総悟ォォ!!テメー遊んでんじゃねえぞ!!」

土方コノヤローの怒号が響くと同時に俺はチャイナを担ぎ上げて走る。うわ、と驚いたように足元をばたつかせて抵抗するチャイナだったが完全無視。

「おいコラ糞ドS!下ろせチキショー!」
「やなこった、このまま川ん中投げ込んでやらァ」
「ふざけろヨてめっ……、ってマジで川に向かってんじゃねーかァァ!マジでかァァ!」
「俺の顔面とスカーフに鼻水ぶちまけた容疑でィ。しっかり罪を償いやがれ」
「器のちいせー男アルナ!うわっちょっ待っ……」
「よいしょ、」
「ぎゃあああ!!」

どぼん。粛正完了。
さて、とひとつ呟き、総悟ォォ!と後ろから鬼の形相で追いかけてくる土方から逃げるべく俺は地面を蹴り付けた。

「てんめエエ!覚えとけヨこの糞サド野郎ォォ!!」

川から這い上がった糞女の本日何度目だかよく分からないぶっさいくな「ぶえっくしょん!」を聞きながら。


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