ひっく。ひいっく。
「何でィ、馬鹿みてーな鳴き声しやがって」 「しゃっくりが止まらないアル」 「知ってるか、しゃっくりって百回したら死ぬんだぜィ」 「マジでか」 「マジ。ご愁傷様」
そんなやり取りをして30分が経過しただろうか。私の横隔膜はいまだに痙攣を繰り返していて、ひっくひっくと情けない鳴き声がこぼれる。エンドレスリピートするそれにとうとう嫌気がさしたのか、ベンチの上で寝ていた沖田は不機嫌まるだしで身体を起こした。
「あのさあ、いい加減うるさいんだけど」 「しょうがないアル」
ぷいっと顔を背けて酢昆布をかじる。ひっくひっく、繰り返すサウンドは相も変わらず。なんだかあまりにもひっくひっく言いすぎてひっくひっくに愛着すらわいてきた。
「そろそろ百回に到達するんじゃねーの」
しかし、沖田のその一言により抱き初めていた愛情が即座に凍り付く。死、という単語が頭のなかをぐるりぐるりと行ったり来たり。
「死ぬアルカ!?」 「百回目で死ぬぜィ」 「い、嫌アル。私まだ死にたくないネ!ひっく!」 「そんなこと言われてもなあ」 「ね、しゃっくり止めてヨ。ひっく。私を助けてくれませんか。ひっく」 「都合いいときだけ敬語使ってんじゃねーや。つーかひっくが語尾みたいになってんぜィ」
呆れがちに私を見た沖田はすぐにおかしなアイマスクを装着してごろんと横になった。ふざけんじゃねーちくしょォォとベンチごと蹴り飛ばしたけど。
「おたく、うちをナメとんのも大概にしいや、あん?アタイが死んでもええ言うんかい」 「落ち着いてチャイナさん口調変わってるからとりあえず落ち着いて。そして出来れば死んでくれィ」 「よーし素直によく言った歯ぁ食いしばれ」 「ゴフッ」
とりあえず一発だけ右ストレートを打ち込んでおいた。そして再び胸倉を掴み上げる。
「おい鼻血なんか出してないでさっさと私のしゃっくり止めろヨ」 「無茶言うんじゃねーや、鼻血は誰のせいだと思ってやがる」 「鼻血はどうでもいいから早くしゃっくりどうにかしろや!」 「そこで3回まわって総悟様かっこいいって言えば治るぜィ」 「んなわけねーだろが適当言ってんじゃねェェ!」
胸倉を掴んだままがくんがくんと前後に振り回せば沖田は白目を剥いて鼻血を撒き散らす。きたねっ。
「糞チャイナてめ、死にたくねーんなら俺の言うことにしたがえや」 「嫌アル。お前みたいな犬の糞以下の人間にかっこいいなんて死んでも言わないネ」 「じゃあ死ぬしかねえなァ、さようなら」 「……」 「可哀相なチャイナ。人生の最期がしゃっくりだなんてねィ」 「……」 「しゃっくりで死ぬなんてかっこ悪すぎでィ。ご愁傷様」 「……そ、」 「あ?」 「……そ、総悟様かっこいい」 「ぷぷーっ!」 「死ねエエエ!!」
ドゴッ
「ぐふッ」 「やっぱりお前私をおちょくってたアルナ!最低アル!」 「いやチャイナ落ち着けって。人生にはそういうときもある」 「こちとら人生終わりそうなんだヨ!死んだらお前ずっと恨んでやるからなアア!」 「やったぜ、これで敵が一人減る」 「最初から殺すつもりだったなテメエエ!」 「今さら気付いても遅いぜ。テメーは自分の横隔膜が痙攣するのを黙って見てな」 「残念でしたー、横隔膜が痙攣するのは見えませんー」 「よーしテメーはしゃっくりで死ぬ前にここで叩き斬ってやらァ。そこに直れ」 「ふざけんな糞ガキ。死ぬ前にお前をぶっ殺してやるヨ」 「やれるもんならやってみやがれ」
「……つーかしゃっくり止まってね?」 「マジでか。チッ」 「舌打ちしてんじゃねーヨ。お前ぜったい殺すからな。お前ぜったい苦しめて殺すからな」
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