「おまえ美味しそうアルナ」
「それは食べて下さいって意味ですかねいチャイナさん?」

平日の真昼間に公園でうつらうつらと夢のなかへの舟を漕ぐ俺に向かって放たれた一撃は誰しもの想像を超える破壊力だった。なに、美味しそうって。襲えってか?俺に襲って下さいってか?

「おまえニヤニヤして気持ち悪」
「糞チャイナぶっ飛ばすぞ俺の幸せな時間を返せ」
「妄想なら自分の布団のなかでするヨロシ。気持ち悪」
「やめてくんない、気持ち悪って真顔で言うのやめてくんない」

俺のガラスのハートを粉々にするつもりかこの糞アマ。すでにひびの入ったハートを強く持ち直し、再び目の前の女を見ればやはりぼんやり俺を見つめながら美味しそうだと呟きやがる。どういうことだ。なにがそんなに美味しそうなんだ。チャイナおめーうさぎさんかと思いきや実はオオカミさんだったのか?

「馬鹿みたいなこと考えてないで仕事しろヨ税金泥棒」
「読心術なんぞ心得やがって俺はテメーの将来が心配だぜィ」
「読心術ってのはなあ、相手の顔みてりゃだいたい分かるもんなんだヨ。ほーらお前の顔も見れば見るほど殴りたくなる」
「すげーやチャイナ、俺もおんなじこと考えてた。なんだろうこの気持ち、超殴りてー」

とか言いながらおもいっきり拳を投げ込んでしまったわけだがムカつくチャイナ娘はドヤ顔でそいつを避けた上にさらに攻撃してきやがった。いちいちムカつく女。ほんと、ちょっ、一発でいいから殴らせてほんと。

「おいお前女の子には優しくしろって習わなかったアルカ」
「女の子ってどこ?目の前にキングギドラなら見えるけどねい」
「モスラがいいアル」
「知ってるかモスラってアレちょうちょじゃねえんだぜ、蛾だぜ」
「知ってるけど夢壊れるから言うなァァ」

と、だいぶ話が本筋からずれて危うく脱線事故にいたる間際だったというところで無理矢理レールを元に戻す。

「俺のなにが美味しそうって?」

尋ねればチャイナはかくんと首を傾げて俺の頭を指差した。

「……髪」

ああ、なんだ髪か。さてはハチミツみたいな色で美味しそう、ミルクティーみたいで美味しそう、とかそんな感じだな?なんだチャイナって意外に可愛いところもあるんじゃねえか。

「……髪が」
「あー、あれだろ、ハチミツみたいで、」
「髪が昨日食べた切り干し大根とおんなじ色してるアル。美味しそうネ〜」
「え」

あ、そういえばこいつの食に対する嗜好って地味なんだった。たくあんとご飯で十分なんだった。俺の髪は切り干し大根なんだった。ずこー。

「なに落ち込んでるネ、ドS馬鹿」
「そっとしといて」


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