週末の午後は雨だった。最初はぽつりぽつりと可愛らしかったそれが今となっては大泣き状態である。真選組の頂点に君臨し、皇帝の座まで手に入れた。それで十分なはずなのに、何かが俺の中でずっと止まったまま、欠けている。
2年前の週末の午後、その日も雨が降っていた。町の真ん中に見慣れた桃色。いつも携えている傘を下ろしたずぶ濡れのそいつに「オイ、」と声をかけてみたが振り向くことはない。

「シカトかィ、糞女」

揶揄も罵声も意味がなかった。だんまりと俯いた背中はやけに小さく見える。どこか遠くに、消えてしまいそうだ。「オイ、」ともう一度声をかけるとそいつはようやく振り向いた。ゆっくりと、いつもと変わらない、憎ったらしいぶすくれ顔。

「さよなら」

それだけが耳に残った。やけにハッキリと聞き取れた。一言、何かを返すことも出来ぬ間にあいつの姿は人混みの中に消えて行って。

(さよなら、って、何が?)

わからなかった。言葉の意味が。何の意味もない言葉だろうと思っていた。そう願った。
奴が何を言っていたのか理解したのはほんの数日後。万事屋の主人が相変わらず気怠げに「あいつなら地球から出てったぜ。えいりあんばすたーになるんだとよ」と教えてくれた。

さよなら。

あの日、雨の中、彼女はそう言った。何を怒っていたのか雨に濡れたぶすくれ顔は真っ赤だった。だが、あれは本当に雨で濡れていただけだったのだろうか。真っ赤な目尻、眉間の皺、ぶすくれ顔。もしかしたら、奴は別れを惜しんで泣いていたのかもしれない、なんて。

(ご都合主義もいいとこだ)

嘲笑が漏れる。2年も前のことに何を今さら。空模様は相変わらずの雨で、俺は差していた傘をゆっくりと閉じた。

さよなら。

呟いた言葉は笑っちまいそうなくらい、しょっぱかった。



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