髪の毛をぐしゃぐしゃ撫でられた。喧嘩の後、何時間もぶっ通しで暴れ続けてたらいつの間にか空はピンク色の夕焼けこやけ。 髪の毛をぐしゃぐしゃにされて気が付いた。やっぱり私、結局なんにもお前に追い付けてないんだなあって。
「なあに落ち込んでんでィ」 「……べつに」
ぷい、と顔を背けたら沖田は楽しそうに笑った。振り向いて睨み上げるとそいつはにやりといたずらに微笑む。そこでまた気が付いた。私はいつまでもこいつの顔を見上げっぱなしなんだと。 背伸びしたってその身長には追い付けない。たったそれだけのことなのに、なぜだかお前が遠く感じる。
「遠いアル」 「あ?」 「お前、遠いヨ」
ふいに泣きそうになった。こんなちっぽけなことで泣くなんてどうかしてる。だから我慢した。遠いそいつのつむじを眺めながら。 ぐしゃぐしゃ、また頭を撫でられる。不器用な手。凄まじく面白くない。
「ガキ扱いすんな」 「ガキだろィ」 「立派なれでぃヨ」 「は、どこが」
ガキ扱いされたくねえならこの手振り払ってみろィ。そう笑うもんだからやっぱりこいつの方が一枚上手だって思った。こうやってぐしゃぐしゃにされるのは案外嫌いではない。それを分かってて言ってきやがる。
「お前、俺と肩並べて道歩けるぐらいにはなれよなァ」
唐突にそんなこと言ってのける今日の沖田はどこかおかしい。なんで急に頭をぐしゃぐしゃ撫でたりなんかしたの。聞きたくても言葉にならない。否、聞くのが怖い。
「じゃあな」 「……ま、」
待って。なんて、どうして呼び止めるのだろう。せりあがった涙はボーダーラインを越えてぼろりと落ちる。広い背中は小さくなって、黄昏の向こうに焦がれて消えた。
ねえ沖田、つむじが遠いよ。
「……置いていくんじゃねー、くそサド、汚職警官」
精一杯の背伸びも届かない。いつまでも私は、あなたまでの距離を十五センチ空けたままで。ツンとした鼻の奥が憎らしかった。
「……ばかやろー」
嗚呼、つむじが遠い。
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