ひとりでぼんやり座っていると能天気なクラスメートがやってきて、へらりと笑う。

「なんかあった?」

そう思った事をそのまま口にしたであろう水谷に、すこーしだけイラっとしてしまったけれど、この顔見たらちょっぴり力抜けた。

「なんで」
「機嫌悪そうだから」

分かってて声かけたあなたは勇者ですか。でも水谷の空気読めないとこ結構すきなんだよなぁ私。

「まあね。エイプリルフールにまんまとひっかかった」
「はは、騙されやすそーだよな名字」

ムッとして水谷の少し高い位置にある顔を見上げてやったけど、その表情とは裏腹に、なぜかさっきまであった私のイライラはまるでストンて消化したように消えていた。水谷の柔らかい表情に、今朝一番に私をからかった人物とはまるで正反対な奴だなぁとその時のそいつの顔を思い浮かべたりして。


「………好き」
「…!」
「…なんて友達だと思ってた奴に言われて私が動揺してたら満面の笑顔でウッソーって、普通腹立たない?……水谷?」

何だか様子がおかしくて、顔を覗きこんだらぽかんと立ち尽くしていた水谷が唇を小さく動かしたけど、声が小さくて聞こえない。

「……、」
「え?なに?」
「いまの、もっかい」

今度ははっきりと。おなじみのへらり顔で。茹でだこみたいになった水谷に、鈍い方ではない私はすぐに気づく。べつに私はからかうつもりで言ったんじゃないし、水谷も本気にしたわけじゃないのは分かってるけど、目の前の赤い顔につられてなんだか急に私が恥ずかしくなった。

「…ね、もっかい言って。嘘でもいーから」
「……ヤダ」
「ちぇー」

拗ねたようなフリしてるけど、くちもと緩んだままだよ水谷。

「じゃあいいよー。俺から言うから」
「今日エイプリルフールだよ」
「うん知ってるー。でもなんか、名字に言いたくなった。」

そう笑った水谷の茶髪がふわっと近づいたと思うと、耳元で音が震える。


「だから明日言うから」



…そんなの、今言ってるようなもんだって。



返事はなんて言おう
(その時考えたらいっか。)
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