「雨だりー」

降り続く雨、連日の曇り空。濡れて乾かないグランド。ここ数日野球部の練習は筋トレやミーティングなど室内でできるメニューばかりだったけれど、今日は休みになった。ので、久しぶりに阿部をうちに誘ってみた。

「梅雨うぜー…」

なんて、そのおかげで野球不足?の阿部はストレスが溜まっているのか少し不機嫌だ。朝から「今日も外で練習できねぇ」って一日中しかめっ面していた。もともと愛想のいい方ではないけど。でも田島や泉、野球部の他の連中も近頃ずっと憂鬱そうだったな。みんな野球がしたくてしょうがないんだろうな。

私の部屋で阿部はぶつぶつ呟く。買い置きしていたプリンを二人ぶん出したけど、手をつけようとしない。ぼーっと窓の方を眺めている。私のスプーンを持つ手もなかなか進まない。だいすきなシロップがたくさんかかったプリンもいつもよりおいしくない。

「プリン、いらないの?」
「…食う」
「……ねぇ」
「あー?」
「そんなだるいなら帰れば」

つい言ってしまった。本当は帰ってほしいわけないのに。そこでようやく正面に座る阿部が顔を私に向けてくれた。…やっと私を見てくれたけど、きまずくなった私は俯いてしまう。

「なに拗ねてんだよ」

拗ねてないし。なんて心の中で反抗。

「おい」
「………。」
「…名前」

阿部が動く物音がした。ちらりと見たらテーブルより少し後ろに離れていた。目があった阿部は苦笑いしていて、今日初めてしかめっ面以外の顔を見た気がする。

「おいで?」

そんなこと普段言わないくせに。……ずるい。

ねぇ本当は私、雨は嫌いじゃないんだ。だって少しでも阿部と一緒にいられるでしょ?無言で阿部に近づいて隣に座ると腰に手がまわってきて、そのまま抱き寄せられた。

阿部が私の気持ちに気づいてくれたのかは分からないけど、だんだん心のもやもやが晴れていく気がした。


かまってよ

「たまには雨の日もいいかもな。名前とゆっくりできるし?」

なんて、本当に思ってんの?笑った顔が見れたからどっちでもいいけど。
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