02
「あいつと初めて会ったのは、もう五年も前になるかな…」
あいつって誰?なんて聞かなくても明白だったから、俺は黙って走った。
耳だけは、注意深く傾けて。
「出会ったときにはもう…アイツは男に抱かれることを覚えていた。けどな…
“快感”っつーもんを知らなかった」
五年も…前に?
たった九歳じゃないか…
あの子は…
「苦痛を伴うだけの行為の筈なのに、あいつは抱かれないといられない体になっていた。完全に狂ってた。
だから、少しでもその行為が辛くないように…俺が教えてやった」
と、そう語るゲンマの声は酷く、憂いに満ちあふれていた。
普段、俺と同じで感情を表に出さないタイプのこいつ。
しかし今の声は、凍えきっていた。
「それからは、手当たり次第、自分を求める相手になら誰にでも体を預けていった」
俺は、初めて口を挟んだ。
「一体…あの子は…」
「俺も、詳しいことは知らない」
俺は失望すると同時に、何故かほっとした。
厭な予感に、体が支配されていたから。
「三代目と、三代目からの申し渡しを受け取った五代目以外に、ナルトの過去を知っているのは、あのうちはイタチだけらしい」
意外な名前に驚いた俺は、ゲンマに視線を向けた。
それを平然と受け止めたこいつは、眉間に皺を寄せたまま、静かな怒りの籠もる声で話を続けた。
「昔のナルトは男同士のセックス…というか、男に陵辱を受ける行為のことをこう呼んでいた…」
ゲンマは、酷く言いづらそうに、間を置いた。
その間が、やけに長く感じた。
そうして、ようやく紡いだのは…
「“浄化”…ってな」
「…」
酷く不快な何かが、身体の中を駆けめぐる。
それを払う様に天を仰いだその瞬間、黒と赤の影が、俺たちの目前に堕ちてきた。
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