カカシ視点
迷子になってしまった、君の心。
あいのうたを忘れた、君の声。
心も声も喪った君は、人魚姫―――
なあ、ナルト…
君は今、
どこにいるの?
* * *
「何度言ったら分かる!もう既にアスマとシカマルに向かわせたんだ!」
イライラした様子で、爪を噛む綱手様。
女のヒステリーほど、怖いもんはないね全く。
だからと言って、今回ばかりは引き下がれないけど―――
「ナルトを捜せるのは、俺だけです」
もう一週間、ナルトは姿を消していた。
最後にあの子の気配を感じたのは、八日前にアパートを訪れた時。
強力な結界によって、誰一人、近づけなかった。
さながら、天の岩戸に閉じこもる女神のように、あの子はそうやって、誰の呼びかけにも答えなかった。
「自惚れるな。元はと言えば、お前があいつを動揺させたそうじゃないか…」
綱手様の言葉に、俺は鳩が豆鉄砲を喰らった顔をした…と思う。
それだけ、驚いた。
「何の話です…?」
尋ね返すと、綱手様はちらりと、俺の背後に視線を向けた。
「そうだろう、ゲンマ」
俺はゆっくり振り返り、現れた特別上忍に視線を向けた。
「お前ってナルトの見張りなの?」
自分でもはっきり分かるくらいの冷たい声で、俺は言った。
「敢えて言うなら…カウンセラーかね。」
「ナルトを病気みたいに言うんだね」
「病気だよ」
「―――…」
事も無げに言い切る涼しい顔した男の胸ぐらを、気付いたときには強く掴んでいた。
「ここで揉めるのはよしな…もういい、分かったよ。お前達には二人で、ナルトを捜して貰う」
嬉しさ半分、複雑さ半分。
「先に二人で動いているアスマ、シカマルと合流し、その後はアスマの指示に従え。いいな」
俺とゲンマは姿勢を正し、次の瞬間には部屋から消えた。
分かってる。
俺より、こいつの方が、ナルトを分かってるってことくらい判ってる。
そう思いながら、口寄せで追跡用忍犬を呼び寄せ、アスマ達の居場所を捜させた。
俺とゲンマはそうして、森の中を駆けていた。
一切、会話もなく。
先に沈黙を破ったのは、楊枝を近くの木に吹き矢のように突き刺したこの人だった。
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