NOVEL | ナノ

 目が覚めると後ろ手に拘束されて床に座りこんでいた。自分が何故ここにいるのか分からなくて目を丸くする。見たこともない部屋の中で壁に寄りかかるように四角の一つに座っていた私は慌てて立ち上がった。
 部屋を見渡すと一番最初に目に入るのはベッドだった。かなり大きくて部屋の面積のほとんどを占めている。あとは二人掛けのソファーとシンプルで簡素なドレッサーが壁に面して置いてあった。人の気配や私物は存在しておらず、家具の様子もホテルの一室みたいだった。
 だけどホテルと言うには窓が存在しておらず、そのうえ大きく異質なものがあった。壁の上部には大きな電子パネルが設置されていて数字が映っている。示す数字は時間のようでタイマーのように一秒ずつ減っていっている。なのに現在の時刻が分かる時計はない。
 それ以外の家具はなかった。部屋を照らす唯一の光源である電気を見上げる。物の数が少ないシンプルな部屋の中で、主役のように置かれたベッドの立派さだけが異様で閉塞感があった。
 部屋の様子を見ながらなんとか拘束を外そうと動かしていたが少しも手ごたえがない。後ろ手に拘束されているせいで拘束しているものをまともに見ることが出来なかったけど触れている場所から伝わってくる硬質な感触は私の腕力ではとても外せなさそうな気配があった。外すのを諦めて唯一の出入り口として存在していた扉を体で押して開ける。そこから廊下に出た。
 廊下の向こうにはユニットバスに繋がっていた扉だけが壁にあって、普通なら外に出入りする扉があるべき場所は行き止まりのようになっていた。どの突き当りも外に繋がっておらず、閉鎖されている。その上何故ここに自分がいるのかも、誰かに連れてこられたかどうかすら分からない。異常さに冷たい汗が滲んだ。自ら来た覚えもない場所に閉じ込められている。
 手が使えないので行き止まりの壁に体で触れてみるが、何かが隠されているというわけでもなさそうで、もとから壁として作られたような質感だった。拘束と同じように私の手で壊して外に出られるようには思えない。これからどうすればいいのか分からずに立ちすくんでいると、今出てきた部屋の中から大きな音がした。人の声もする。男の人の声だ。声は複数聞こえて、会話をしていた。びっくりして閉めていた扉越しに思わず向こうを見つめた。
 ユニットバスの方に隠れるか迷って、でも動くのが怖くて、距離をとるように壁に背と手を付けていた。私の気持ちには関わらず扉は開かれる。
 緊張で息を殺して開く扉を見つめていると現れたのは轟くんと爆豪くんだった。向こうも私がいると思っていなかったのか驚いた顔をしている。私とは違い二人の手元は拘束されていないようだ。
 今の状況がどういうことなのか分からなくても知人と会えたことに胸の中が安堵で満ちて、思わず自分の眉が下がるのが分かった。安堵が顔に全部出ていたのか爆豪くんがハッと笑って情けねー顔と言う。そのいつも通りの言葉にもほっとした。轟くんが何かされていないかと心配してくれたので首を横に振る。
 それからここがどこなのかも何故ここにいるのかも分からないこと、そしてさっき目が覚めたばかりだったことを話した。二人も私がそうだったように突然意識がここで覚めたようで結局この部屋が何なのか、誰によってこの状況が作り出されたのか分からないようだった。私が廊下に出てすぐに二人はあの部屋に現れたようだ。
 私は背を押し付けていた壁から体を離し、行き止まりのようであるということも伝えた。外に繋がる扉がないということを知った二人に何故かまるで自分が閉じ込めた本人のような後ろめたい気持ちになりながら見守る。だけど二人はここに閉じ込められていることを認識して私のように怯えたりしなかったし、その表情は理不尽な状況に対して怒りや困惑を見せることはなく、冷静なまま対処を考えているように見えた。
 二人は個性で壁を破壊しようとしてくれたが、何故か壊れるどころか傷がつく様子もなかった。どこにあるかも分からない部屋だからか必要以上に力を使えないようだ。それにしても傷もつかないので、何か個性で守られているかもしれないという話を二人がする。
 一度部屋自体を確認しようという話になって戻ろうと部屋に一番近かった私が背中を向けると(二人が壁を壊そうとしてくれた際に腕で制され彼等の後ろに隠されるような位置にいた)近くにいた轟くんが「は?」とぎょっとした声を出した。轟くんのその声に慌てて彼等の方を向く。爆豪くんもびっくりした顔をして私を見ていた。
 轟くんが私の拘束を掴んだ。それまで背中を向けることはなかったし言わなかったので私が拘束されていることに今気づいたみたいだった。見えないけど外そうとしてくれているらしい。重い音がする。貸せと爆豪くんも外そうと手をかけてくれるがそれでも外れない。彼等の手でも結果は芳しくないようだった。申し訳なくなった私が平気だからまず部屋に戻ろうと言うと当人である私以上に納得していないような顔を二人はしたがそうしてくれた。
 部屋に戻ってきてまず自分たちが身につけているものを確認することになった。私もそうしようとしたが拘束されているのでポケットを探ることもできないことに気づき思わず二人の顔を見上げる。轟くんが私のスカートのポケットや上着とシャツのポケットも見てくれた。上着のボタンをこの距離で異性に外されたりポケットの中をまさぐられるのは初めてで思わず視線を逸らすけどこんな場面で一人で照れるのも申し訳なくて大人しく耐えた。結果として二人は身に着けていた制服とハンカチぐらいの必要最低限の持ち物という様子だったし私も似たようなものだった。スマホも持ち合わせていなかった。
 そしてそのあとで改めて確認された部屋の中からは引き出しに入っていた『解放の条件は時間経過のみ』であることが記された紙だけが見つかった。壁の電子パネル自体も普通のものであるようだ。ようだ、というのは拘束されているせいで部屋を改めることにも協力できず、座っていていいと言われてしまいせめて静かにしながら二人が部屋の隅々まで、壁や天井や床まで確認するのを私は見ていたからだ。
 引き出しを確認したのは轟くんで、紙の他にもう一つ何かが出てきて(手におさまるくらいの小さな箱に見えた)それに視線を落とした瞬間に轟くんは目に見えて顔を歪めた。その反応に爆豪くんも轟くんに近づき手元をのぞき込む。それを見た爆豪くんも同じような顔をすると、二人は示し合わせたように私の方を見た。急に見つめられてびっくりして首をかしげる。
 何が見つかったの? と思わず問いかけるとこれまた示し合わせたようになんでもないという反応が返ってくる。彼等のその反応は何でもないはずがないけど口を揃えてそう言われたものを無理に見せて欲しいと望む気にもなれず、私は大人しく座ったままでいた。さっき見つけられたその箱は爆豪くんの方が潰すように握りしめて隠すように自らのポケットに入れた。
 箱を見つけたあとに紙を前に轟くんと爆豪くんは二人だけで何かを話をしていた。私には聞かせたくないんだろうなということがなんとなく分かったので注目しないように視線を落とす。
 話し終えた二人は取り合えずあの時間が来るまで待つことにすると結論を出したようだった。伝えられたその言葉に私も了承し、頷く。電子パネルを見上げると残り時間の数字が私が目を覚ました瞬間から様子も変わらずに赤く光っている。短くはない時間だったけど人間が何も持たずに閉じ込められても問題を感じない程度の時間だった。
 そう決まって最初にベッドに爆豪くんが横に転がった。轟くんが私が座っていたソファーの隣に座って、顔を見て問いかけてくれる。
「大丈夫か?」
 拘束のこともあっただろうし、この状況のこともあったと思う。私は彼の目を見て再び頷いた。二人がいてくれてよかった、安心してると答えると轟くんの表情が明確に緩む。「良くねえけど良かった」と言ってくれて、私も笑った。
 そうして座ったままで轟くんとなんでもないような話をぽつぽつとした。時々、爆豪くんがその話題に混じった。静かな部屋の中は病院の待合室の雰囲気みたいだと思った。パネルを確認すれば時間の秒数まで分かったけど、体感では時間はもっとゆっくり流れているように感じる。
 そうして閉じ込められて一時間ほど経った頃に拘束を嵌められている箇所に明確な痛みが走った。何かが刺さるような痛みだった。突如として与えられた思いがけない衝撃と痛みに思わず声を出しそうになった。
 動かせる範囲で手のひらを重ねて確認するが濡れた様子はなく血は流れていないようだ。細くて鋭いものが刺さったような感触だった。
 刺された? 何を? 針? ―――注射? 自分の想像にゾッとした。ただ刺すだけではなく何か薬を入れられたのだとして、もしそれが命に係わる様なものだったとしたら余計に足を引っ張ることになるだろう。この状況で既に気にかけて貰っているのに今以上に責任を感じさせてしまうだろう二人のことを思うと言葉を失った。汗が滲んでくる。
 汗が滲んだのは二人に迷惑をこれ以上かけることを意識しただめだと思ったけど、それ以外の意味もあったようだった。部屋で目覚めたときから今まで、暑さも寒さも渇きも感じていなかったはずなのに風邪を引いたときのように熱くなってくる。部屋の温度は変わっていない。変わったのは私の体だった。
 座っているのにふらふらした。感じたこともないような感覚に声が出そうになって、変に思われないように唇を噛みしめた。
 私は顔を伏せたまま、二人が無理に部屋から出ようとはしなかったことを考える。理由は私が一番理解していた。私がいるせいだ。
 多分二人だけだったら恐らくもっと強引にでも外に出ようとしていたと思うし、実際に出られたのかもしれない。二人が潜めた声で話していた、聞き取れてしまった内容を思い出す。
―――「拘束だって普通は全員か、それか俺達につけるだろ」
 私を拘束したのは私にしかつけられなかったから? それとも私のことを二人にとってより負荷にするために? 結局は私が一番弱点となる要素だったからじゃないかと思った。おそらく二人もそう考えただろう。でも彼等は私にそう言わなかったし、分かっているのに私のことを気遣ってくれた。
 二人は私が拘束されていることを知ったときから閉じ込められていること以上にそちらの方がずっと嫌そうだった。あのあとも拘束をじっと見つめられていたのを知っている。でも個性を使ってでも私の拘束を外そうとはしなかったのは私に怪我をさせないためだ。拘束に納得していないのも、だけど無理やり外そうとしなかったのも、私のためだ。結局は全部が私のためだった。
 そんな彼等に刺されたことまで伝えてこれ以上心を割かせたくない。我慢するための覚悟をして目を閉じる。そうして耐えているとどれくらいか時間が経ったあとに"二度目"が来る。二度目によって肉体の反応は明確に激しさを増した。そして私は効果が強められたことにより今更自分の体に打たれたその薬がどういうものなのかを理解した。ただ具合が悪くなるようなものよりずっと酷いと思った。ふとももに滲んだ汗で制服のスカートが湿り気を帯びるのを感じる。そんな反応をしている自分の体に強い羞恥を感じる。
 "三度目"が来たとき耐えるしかないと思っていたはずなのにどうしても耐え切れなくなり、私はついに座っていられなくなって椅子から崩れ落ちた。床に膝をつきそうになったけどその前に隣にいた轟くんが私に腕を伸ばして支えてくれた。名前を呼ばれるが返事がままならない私を轟くんはあっさりと抱き上げてしまうとベッドに運んでゆっくり下ろしてくれる。
 ベッドは爆豪くんが寝転がっていても私が横になれるくらいに、そして私がそうしてもまだスペースが有り余っていた。
 仰向けに下ろしてもらったけど顔を見せられなくて私は隣の爆豪くんがいない方を向いて体を丸め小さくなる。丸まると耐えるのが少しでも楽になるような気がした。その代わり制服のスカートが捲れるのが分かる。スカートの中の熱い空気が外気に触れて思わず足が震えた。
 見かねたのか爆豪くんから足を放り出すな痴女かと叱咤の声が飛んでくるが返事にならない。痴女の言葉が間違っていないのが余計に恥ずかしかった。でも拘束されている腕の位置からではスカートを直せない。それに爆豪くんも気づいたのか、少し乱暴にスカートを引っ張って直してくれる。むき出しだったふとももがきちんとスカートの裾に隠れた。されるがままそれでも無言でいると様子を変に思われたのか「おい」と声をかけられる。でも、答えられない。
 ベッドが軋んだ。そむけた顔の先で轟くんがベッドに乗り上げ私の顔を見ていた。
「体調が辛いのか?」
 熱があるのを確認しようとしたのか、轟くんが額に触れてくれる。私のことを心配してくれた手のひらだったのに、その手にもっと触れて欲しくて堪らなくて、滲んでいた涙がこぼれた。それを見て轟くんが困った顔をしてから頬を濡らした涙をぬぐってくれた。そうして優しく触れられると体も心も辛くなってくる。泣くと噛みしめていた口まで緩んだ。
「……さっき、手錠が……針みたいな……」
「刺されたのか?」
 轟くんの顔色が変わったのを見てやっぱり余計なことを口にしてしまったと後悔をした。轟くんが拘束されている私の腕を確認してくれる。それを私も横目で見ていたけど硬い金属で出来た拘束は外から見てもどういう構造なのかすらやっぱり分からないようだった。
 隣で寝転がっていた爆豪くんも私の顔をのぞき込んでいた。近い距離で見つめられる。目の様子を確認されているのが分かった。一度手首に視線をやった爆豪くんは手を伸ばして首に触れてくる。何をしているのか分からなかったがしばらくそうしている様子を見て脈を測られているのだと遅れて理解した。
 轟くんもまた再び必死な顔で私の拘束を見ている。そんな私の様子なんかに真剣になってくれている二人に、自分の肉体に出ている症状をもっと恥ずかしく思った。
「テメーの体はテメーでしか分かんねえんだからちゃんと言え」
 大人しく頼れと当然みたいに言ってもらうことに、ここまでずっと頼り切りの上でそれでも許してくれている言葉に目からこぼれる涙の量が増す。でも今のこの状態を口にはとてもできなかった。泣くのを止められないせいで顔により熱がこもっていく。そして同じようにどうしようもない熱が発されているのは顔だけではなかった。
 私の拘束を見ていた轟くんが声を上げる。
「数字が変わってる」
「あ?」
「最初は3って書いてあったの爆豪も見ただろ。今は、……0になってるな」
 そんな数字を示されていることを今知った。その数字が何を意味してるのか恐らく私だけが理解していたが口にはしなかった。
 もうこれ以上はされることはないと考えていいのだろうか。これより酷いことなどとても考えられなかったから思わず息を吐いた。苦しみの滲んだため息になった。
「熱いのか?」
 私の、きっと傍から見たらうんざりするんじゃないかと思う様子を前にしても心配そうな声音で聞いてくれた轟くんが手の上に小さな氷を作り出すと口元に差し出してくれる。
 差し出された氷自体よりも、私とは違う男性のものでしかないその指を見せられた瞬間、欲望が胸の中にあふれ出た。誘惑に抗えず氷ごと彼の指を口に含む。その指を与えられた瞬間に満たされるのを感じる。
「ん、ん……」
 轟くんの体がぎくりとしたのが舌越しに伝わってくる。私の指とは太さから違う指だ。吸って、舌で撫でてから小さく歯を立てると指の中の骨の感触を感じた。
 せっかく口のなかに入れてもらった氷は口内の熱さによって簡単に溶けて唾液と共に顎を伝って零れていく。それに気づきながらもまだ私は彼の指を味わっていた。
 私を見つめる二人の目にぎょっとしたような、部屋に閉じ込められたことが分かったときですら見なかった怯む気配が滲む。
「……そんなに熱かったのか?」
 恐る恐るというような口調で轟くんに確かめられて、私は泣きながら笑った。確かに満たされたと感じたはずなのに、一瞬にして飢えを感じる。一度満足を覚えたせいで余計に辛くなった。指だけでは足りないと、強く認識してしまった。
 どろどろにとけきって埋められることを望んでいる私の奥底が滲み、そうして足を伝っていく。二人の目が、汗だけではない液体が伝ってしまったこすり合わせた足を見た。彼等の目にとらえられてしまった瞬間にこれ以上はもう耐えきれないと思った。
 反射的に私は舌を噛もうとした。だけどそれを見て動いたはずの轟くんの指の方がずっと早かった。舌を掴まれて阻止される。頭ではこんな風に目の前で死なれたって困らせると分かっている、でももうこれしかないとも思った。
離してと目で訴える私を轟くんは許してくれなかった。
「もう噛まないって約束してくれ。そうしないと離してやれねえ」
 躊躇をしたのは一瞬だった。私を見る彼等の目を見たら頷くことしか出来なかったから。
 頷くとほっとしたような顔をされ、舌を解放される。もうこれで私は死を選び逃れられないという絶望を抱いた。その様子をずっと見ていた爆豪くんが深くため息をつくと横たわったままだった私の体を起こす。後ろから抱きすくめられると爆豪くんの体のかたさがよく分かって、衝動が余計に酷くなる。腕から逃れようとしても力が上手く入らないうえに拘束されている体ではもともと力で叶うはずがないのに意味すらなかった。爆豪くんにとっては子供にそうするより簡単だっただろう。
「発散させてやる」
 耳に口を寄せられ囁かれた言葉に私の今の状態を"理解"されてしまっていることを思い知らされ、そして彼の言葉の意味にさっき抱いた絶望よりもよっぽど恐れを抱いた。
 ダメと自分が出したとは思えないような悲痛な声が出て、目の前にいる轟くんに助けを求める。拘束されていなかったらきっと手を伸ばして縋っていただろう。
「助けてじゃねえだろ」
 そう吐き捨てる爆豪くんに上着のボタンを外されて前の部分を開けられる。中のシャツには汗が滲んでいた。熱のこもった体が空気に触れてすうすうする。「轟くん」と必死な声で呼ぶと彼は私と爆豪くんのどちらにも目をやった。
 背後にいる爆豪くんが今どんな顔をしているのか、私には分からない。ただ、それを見た轟くんは、何かを決めてしまったように私の名前を呼んで「辛くなくするだけだ」と安心させるみたいに私に言い聞かせた。
 シャツのボタンも外されていく。その中の下着がむき出しになって爆豪くんは私を抱えたまま片手で外した。衣服の下に大きな手のひらが入れられてそっと触れられる。爆豪くんのいつもの態度とは裏腹に酷く繊細な触り方だった。ゾクゾクとした感覚が背骨のあたりを走って簡単に力が抜ける。胸に爆豪くんの指が沈むのを感じながら耳の近くで思わずと言った調子でやわらけえと呟かれてもっとゾクゾクした。気持ち良さを与えるためだけにその先に触れられ簡単に達する。
 反応を確認するように私の顔を見ていた轟くんは抵抗を簡単に放棄したのを見届けるとスカートの中に手を入れた。太いと思ったあの指で汗ばんだふとももを撫でられる。感触を確かめるみたいに触られるのを焦らされているみたいに感じた。ダメなんてもうとても言えなかった。触って欲しいと心の底から求めていた。
 下の下着もそっと下ろされていく。もう充分どろどろになっていたその箇所を指で確かめられてまた簡単に達する。そのうちにスカート自体も下ろされて轟くんが顔をうずめようとしていることに気づき、それまでと違う意味で冷たい汗が滲む。逃れようとすると後ろから首元を噛まれた。その甘噛みに悦ぶみたいな悲鳴が口から出る。何度か噛まれて私は大人しくなった。言うことを聞いて大人しくなったことを褒められるように頭を撫でられる。撫でられて喜ぶ犬のように嬉しくなった。
 それでも直視できなくて顔を逸らし目を閉じて爆豪くんの胸元に埋める。押さえつけるためではなく抱きしめるように爆豪くんの腕が私にまわった。柔らかな舌の感触に鳥肌とともに甘い悪寒が走り、かたくて厚い爆豪くんの胸に顔を寄せながら耐える。体温と心臓の音がシャツ越しに伝わってくる。抱きしめられることは鋭い気持ち良さを感じる場所に触れられるのとは違う穏やかな心地よさと安心があった。爆豪くんは『発散』するためには必要がないはずの私の接触を拒まなかった。抱きしめてもらうとずっとこうしていてほしくなる。こんなことさせたくないと思っていたはずの気持ちが今もあるのに、それでも抵抗感が簡単に崩れていく。
 轟くんの舌だけではなく、爆豪くんの手まで下に伸びて、二人がかりで何度も何度も達させられる。私の体の輪郭すらとけて液体として崩れていくような錯覚を覚えた。轟くんがふと思い出したというように、自分のネクタイを緩めて上着を脱ぐのを爆豪くんの熱い腕の中で見つめる。二人の体温が私と同じように熱を持っていくのを感じる。それが余計に堪らなくなって、自分の声がもっと甘える響きを帯びていく。
 部屋の中で声を上げているのは私だけで二人は口を噤み、私の衝動を発散するためだけに二人がかりで触れてくれていた。夢でも見ているように現実味がない。気持ち良くて、私は何度もそう口にした。そのためにしてくれているのだからちゃんと伝えるべきだと思った。そうして言葉にしないと壊れてしまいそうだった。泣きじゃくりながら口にすると、私の腕を抱きしめる爆豪くんの腕の力がどんどん強くなる。苦しかったけどそれが嬉しかった。
 轟くんが顔を上げ、汚れてしまった口元を手の甲でぬぐう。そして爆豪くんに抱きしめられている私を見て、かすかに眉をよせた。今度は顔を見られながら指をゆっくりと差し入れられる。押し広げられる感覚で体が悦ぶ。もはやよくなっていないときの間隔の方が少なかった。
 顔が近い。触れられながら見つめられる。目を合わせながら触れられることがまるで恋人同士みたいで思わず轟くんの名前を呼ぶ。鼻先がこすれあう距離の綺麗な顔に反射的にぎゅっと目を閉じると唇に触れるものがあった。見えなくてもキスだと分かった。轟くんのその行動に爆豪くんが「おい」と荒らげた声を出す。
 爆豪くんに咎められても轟くんはキスをするのを止めなかった。後頭部と首のあたりに手をまわされてそのまま舌を舐め合うキスをした。脳がとけだしそうになった。頭が"ダメ"になっていくのを実感することに冒涜的な気持ち良さを覚える。
 思考が霞み、それで達してしまうと爆豪くんの手によって強引に引き離される。爆豪くんはそのまま私にキスをした。「あっ」と轟くんが声を出すのが耳に届いた。
 轟くんよりも強引に、性急にされるキスに、その違いにすら感じた。腕のせいで縋れないから、私は爆豪の腕によってのみ支えられて、されるがままだった。
 今度は轟くんによって体を引きよせられる。濡れた唇を轟くんが手でごしごしとぬぐった。
「長すぎだ」
「最初に手出しておいてよく言えんな」
 キスをされると気持ち良くて、辛くて、でも幸せで、幸せになってしまうことに胸が苦しくなった。体に与えてもらえる気持ち良さとは違う場所で感じる気持ちだった。罪悪感を塗りつぶすような恍惚にうっとりした。必要はないと分かっているのにもっとキスがしたかった。して欲しかった。
 そんな邪な気持ちを抱いてしまったことが視線で伝わったのか、轟くんが真面目な顔で聞く。
「キスするのが好きなのか?」
「ん……わ、わかんない……」
「全部顔に出てんだろ」
 爆豪くんが笑う。挑発的に笑われてうずうずした。触られていっぱい気持ちよくしてもらえて幸せな気持ちにさせてくれたのに、私は私のなかの空洞の存在を強く認識する。誰かとキスをするのもこうして触れ合うのも初めてだったのに空気を吸えなければ苦しいことを誰に教えられなくても知っているように、私の肉体はこの先を、自分のなかにある空洞の存在を知っていた。
 私に密着している彼等の体が反応しているのが触れ合ったところから感じ取る。思ってもみないことだった。これは必要があるから、気遣いとして私に触れてくれているだけだと思っていた。
 キスと同じで私が彼等に触れる必要はないし触れられたくないかもしれない。こうしてもらうことだけで十分に施してもらっているのも分かっている。それなのにその先を連想する。
 そうして考えていたからか完全に爆豪くんの腕に抱かれるばかりだった体が爆豪くんの腕が一瞬だけ離れたときに崩れ、その時に正面にいた轟くんの足の付け根に顔をうずめるような形になった。頬に彼のその場所が触れる。さっきとは反対だった。ベルトにキスをする。ベルトに歯を立てた私を轟くんが見下ろす。見たことのない目だと思った。
「したいのか……?」
 熱で湿った声が降ってきて本当に興奮してくれているんだなという実感を得る。頷いた私に私が最後まで外しきれなかったベルトを轟くんが自分で外してくれた。私がそうする傍らで爆豪くんの指に私のなかを探られる。爆豪くんの指を感じながら轟くんのそれを指では触れられなかったから代わりに頬で触れた。お願いと言葉に出して願う。私に明け渡してくれた轟くんのおかげで直接舌を這わせた。
 爆豪くんは、と彼にも視線を上げて尋ねる。呂律のまわらない言葉だったけどちゃんとわかってくれたらしい。
「轟のしてんのに俺のまで欲しいのかよ」
 目が合った彼にそう言われて初めて"そう"だと思った。私は爆豪くんを視線だけで見る。ベルトの外れる音がして足を持たれる。一瞬そのまま奥まで全てを埋めてくれるのかもしれないと思ったけど、爆豪くんはそうしなかった。ふとももの間に挟むようにして、なかには与えられずにお互いに触れるだけだ。気持ち良いのに切なくなる。
 その切なさを我慢するために喉の奥まですべてを収めた。止めようとする轟くんの慌てた気配を感じる。手のひらが私の頭を離そうとするけど首を横に振ることで答えた。
「無理しなくていいからな」
 そう言って髪を撫でてくれる。爆豪くんに撫でてもらった時も思ったけど可愛がられているのを感じて嬉しくなる。
 撫でることをもっとして欲しくて轟くんの顔を見上げる。轟くんは目を細めて苦しそうに私を見ていた。その表情に余計に体が反応して足を伝ってこぼれ落ちていくのを感じる。そうしながら爆豪くんと触れ合わせてくれる行為だけで達する。さっきよりもっともっと簡単に達しているはずなのにお腹の奥が切なくなる。触れ合えば触れ合うほど切ないことを自覚させられて苦しい。
 私は爆豪くんのことを見た。意図を察したのか、爆豪くんが顔を歪める。二人共苦しそうだと思った。私だけが気持ち良さを貪っていた。
「ねえからダメだ」
 何がないのかすらももはや理解できない。だけど拒まれたことだけは分かって悲しくなる。
「でも、中に、欲しい……」
 爆豪くんの口元がひくつくのが見えた。それでもなにも言わない爆豪くんに不安になって泣きながらぐずる。自分の心の制御が完全にできなくなっているのを感じる。子供みたいだと思った。欲しいと泣くのを止められない。
 さっきまで求めるままに与えられ受け入れてもらっていたのに、拒まれたことで心が恐れで満たされる。私のことが嫌になってしまったのだろうか? 当然だとも思う自分に自分で傷ついて、泣いたらもっと嫌がられると思うのに涙がぼろぼろとこぼれる。嫌わないでと爆豪くんの名前を必死に呼んだ。
 すると轟くんが俺は好きだと言って私の頭を沢山撫でてくれた。髪に指を入れるように、梳いてくれる。爆豪が好きじゃなくても俺が好きだとそう言う轟くんに導かれるように、彼に視線を向ける。轟くんが私を見て口を開こうとするけど、その前に爆豪くんが言葉を発した。
「もう口閉じろ」
 爆豪くんが深く吐いた息が肌に触れ、熱さを感じる。腕を拘束され、床に伏せられたまま犯されているみたいな恰好で欲してやまなかったものを与えられる。私のなかを埋めてくれる質量に多幸感だけがあった。体を力で一方的に揺らされ、自分の意志ではまともに動かせずに支配される。そう自覚すると、それすらも幸せだと思えた。
 あー、クソッと多分独り言に近い爆豪くんの言葉や押し殺すような呼吸に、表情は見ることは出来なかったけど私だけではなく爆豪くんも気持ち良いのかなと思うと嬉しかった。
 轟くんが繋がったままの私の体勢を強引に起こすとそのままキスしてくれる。私は爆豪くんに抱かれながら、轟くんと夢中でキスをした。どちらのものか分からないこぼれた唾液が顎を伝う。
 爆豪は私のなかで達さなかった。私で気持ちよくなってくれれば良かったのにと思ったけどそれを伝えてはいけないことは“ダメ”になった頭でも分かっていた。でもそう望んでいたことは伝わっていたかもしれない。爆豪くんは私の顔を自分の方に向けさせるとキスしてくれた。
「ほんとにすげー顔……」
 私の顔を見て爆豪くんが言う。汗と唾液と涙で汚れて見せられないような顔をしているだろう自覚があった。でもきっと幸せを感じている顔をしているだろう。言葉自体とは裏腹に興奮の入り混じった、だけど優しい声だった。爆豪くんもまた見たことない顔をしている。
「爆豪」
 轟くんがそう名前を呼ぶと、爆豪くんは舌打ちをした。爆豪くんの手によって私の足が開かれ、その体勢のまま横にされる。何をされているのか把握できないまま、私はぼんやりと頭上を見た。轟くんが私の顔を覗き込んだ。逆光の中、轟くんと目が合う。
「……いいか? 俺もしたい」
 腕を伸ばして応えたかったけど、そうは出来なかったからお願いとねだった。
 舌を噛んでしまいたいと思うほどの羞恥を感じた気持ちと今の状況との落差と肉体に満ちる気持ち良さで頭がぐらぐらする。白昼夢みたいに非現実的な光景にもしかして本当に夢でもみているのかもしれないと思う。だけど現実離れした光景とは裏腹に感じる二人の汗を帯びた熱い体温が生々しかった。
 轟くんに頬を撫でられる。その手つきが優しくて、愛し合ってする行為みたいだと思った。もう一度、今度は轟くんにお腹の奥まで満たされる。轟くんが小さく息を吐く。
「苦しいのか」
 私がまた泣いているせいで、轟くんは気遣わし気な顔をした。首を横に振って気持ち良いと口にする。痛みも苦しみも肉体は感じていない。ただただ気持ち良さだけがあって、胸の中だって幸せで満ちていた。それを伝えるために気持ち良いとまた何度も言葉にした。繋がっているからこそ轟くんの体が反応するのが分かる。私だけじゃないと分かって嬉しい。
 だけど何故か感傷に近い苦しさがそれでもあって縋るみたいに轟くんを見つめる。その視線への返事の代わりに轟くんが私に恐らくキスをしてくれようとしたのを横取りするように爆豪くんが私にした。
 口のなかで音にならないまま爆豪くんの名を呼ぶ。熱のこもった口づけだった。爆豪くんに抱かれながら轟くんとキスをして、それから爆豪くんとキスをしながら轟くんに抱かれている事実に、していることの重さを感じる。きっとこの時間が終わって正気に戻る時が来たらそれはより重さを増すのだろうということが想像出来た。出来てももう止められなかった。
 爆豪くんの体が再び反応をしてくれているのを感じて、自らの肉体に溢れるほどに満ちていた荒れ狂うような欲求が本当は既に薄れてきているのを感じていたのに今度は私が口を噤んだ。事実を口に出来ず、されるがままになる。
 本当は自分の体がもう大丈夫だと分かってしまってからもそれを知りながら再び二人に抱かれた。犯されているみたいな恰好で抱かれても、犯しているのは私だと思った。
 行為が終わる頃には最初とは違う意味で体が重くてぐったりしていた私は一人だけベッドに沈んでいた。終わってから初めて、もしかしなくても私だけが完全に状況も忘れて行為に夢中だったことに気づく。
 シャワーはあったけど私は拘束されていて脱げないままだったから、力の入らない体を二人が拭いてくれた。そのあとで制服をちゃんと着させてもらい、乱れていた髪の毛までも直してもらった。
 そのあとで爆豪くんはポケットから何かを取り出した。箱の中から薬の入ったシートが取り出されるのを見ながら、それが引き出しの中にあったものだと気づいた。爆豪くんが轟くんに氷を出すように言う。
 そして出された氷をぐったりとしている私に口移しで含ませ、舌で溶かした。それから薬をシートから出して溶けた水と一緒に私に飲ませる。私の喉が動き、きちんと飲み込むのを爆豪くんはじっと見つめていた。爆豪くんが私に飲ませるために中身を取り出してベッドに置いたその箱に視線をやる。初めて近くで見たその箱には緊急避妊薬と印字されていた。
「さっきから長すぎだ」
 そうされているのをずっと見ていた轟くんが私を抱き寄せる。と、同時に何故か今になって腕の拘束が外れた。ベッドの上に落下した拘束を初めてまともに直視する。爆豪くんがそれを手に取って床の上に、部屋の端へと投げるを見ながら、私は轟くんの胸に抱かれていた。自由になったはずの腕はずっと同じ姿勢をさせられていたからか、力が入らなくて外れてもなお痺れている。
 そうしてもいいのか躊躇いを感じながらもその腕で轟くんの背に腕をまわし返すと嬉しそうな顔をされて今更照れた。さっきまでとは別の意味で距離が近く感じる。
「何照れとんだ」
 熱を持った頬を爆豪くんに見咎められて余計に恥ずかしくなってきた。言葉も上手く出て来ずにいると轟くんに頬を撫でられる。体にいまだ残っている余韻が簡単によみがえって、私はされるがままもっと照れていた。
「発散させるためなら一人でも十分だったんじゃねえのか」
「今更過ぎんだろ。どうせ引かねえくせに」
「それは爆豪もだよな」
 今度は腕を爆豪くんに引かれて彼の胸の中に飛び込むことになった。顔を見上げると私を見つめる彼と目が合う。おそらく今までで一番静かな瞳で爆豪くんに見つめられて、私は何かに気づいてしまいそうになり、慌てて下を向いた。
 壁にかかった電子パネルが示す時間の残りは大きく減り、終わりがもうすぐに差し迫っている。解放されたあとの"これから"がどうなってしまうのか、私には分からない。不安に似た感情がわきあがってくる。それが顔に出たのか、爆豪くんがなにも言わず、私の顔を胸に押し付けるようにまたきつく抱きしめてくれた。そして轟くんが私の空いている手に手を重ね、握ってくれる。最中やこうなる前より、ずっとずっと胸が苦しくなった。向けられている優しさに自分自身が見合わないと感じる。
 こうすることが許されるのは今だけだということを知っていたからこそ、爆豪くんの胸に自分からも体を預けながら、轟くんの手を握り返す。許されている間だけは、まだ、こうしていたかった。

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