NOVEL | ナノ

「愛している人ならずっと一緒にいたいよ」
 私がそう言うと彼は少し考えたような顔をした。くちにしてから意図せず一緒にいたいという気持ちを告白したかたちになったことに少し気恥ずかしさを感じた。私にとっての『愛している』人など彼にほかならないからだ。
 恥ずかしさと照れが入り混じり言葉が続かなくなった私を彼はその瞳でじっと見つめる。感情の見えない瞳で彼は言った。
「僕もそう思うよ」
 彼がお土産として果物を持ってきてくれたのはそんな会話をしたことも忘れたころだ。彼が菓子の類をお土産として持ってきてくれることはあったが、こうして果物を持ってきてくれるのはなかなか珍しいことだった。
 刃物とお皿を用意しようとした私を制止すると、彼自身がその果実の皮を剥いてくれた。その果実は見たことがない見た目をしていた。外も中も赤い見た目はどこかザクロに似ているけどザクロとは違うようだ。なんという名前の果実なのかを聞くと、彼はほほ笑むだけで答えない。だけどやっと手に入ったんだと嬉しそうにしている姿に私まで嬉しくなる。
 皮を剥かれ、血が滴るように赤い断面をさらした果実の破片を彼は最初に、自分自身のくちに入れた。果実が彼の赤い舌の上に消えるその姿はどこか煽情的だ。喉仏が上下し、果実が飲み込まれる姿に私が見惚れるのを彼はふっと笑った。
「そんなに見つめなくてもちゃんと君にもあげるからね」
 物欲しそうな顔をしていたらしいことに気づいて私は顔を赤くする。はい、あーんとその指につままれた果実を私は大人しくくちを開けて受けとる。
 ももをくちにしたときのような感触だった。だけどももよりずっと鮮烈に甘い。舌にのせただけでくちのなかいっぱいに脳を刺すような甘さが広がる。
「食べたね」
 その言葉の響きに逆にくちのなかのものを出しそうになって慌てて手で押さえた。くちのなかで噛むこともできず飲み込むこともできず半端に砕かれた肉が崩れ、なかから果汁があふれて舌を濡らす。
 食べたらまずいものだったのだろうか。くちに含んだまま私は少し迷って彼の目を見た。私を見つめる彼の瞳には期待と喜びが渦巻いている。その表情に迷いが消え、私は彼に見守られながらそれをゆっくりと飲みこんだ。
 果実がのどを通ると同時に脳髄が痺れるような恍惚感が走る。本当に甘い。癖になりそうだ。
 彼に見せてと言われてくちを開き、彼の前になにも残っていない咥内をさらす。それを見て今まででいちばん幸せそうな顔をする彼は私にキスをする。彼のくちからも同じあの甘い味がした。

ヨモツヘグイ/果実は幸せの味

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