女性向けジャンル | ナノ
 解放されるのはいつもカーテンの隙間から光が漏れ出るのを感じる頃だ。その頃には蹂躙されつくして、動けなくなる。そうなるのは彼を受け入れようとしないからだということを私は理解していたし、激昂とともに抱く彼自身にも何度となく告げられた。私が受け入れないから、私が愛さないから、だからその代わりに際限なく求めてしまうのだと、私の体を抱くことで支配しながら、それなのに震えて傷ついて苦しみを覚えている顔で、彼は言う。
 私とは裏腹にまだ平気そうな様子の彼は私の顔を覗き込みながら、献身的に声をかけた。
「大丈夫、ですか……? 水、……飲みますよね?」
 彼の指が頬に張り付いた私の髪に触れ、耳にかける。ここにいることを確かめるように肌を撫でられた。抱いている最中と相反するように行為の外で激昂を見せずに私に触れようとする彼の手に躊躇いが見られるのは拒絶されるのを恐れているからだということも私は知っている。
 髪に触れる躊躇いがちなその指先の感触に心まで撫でられるような感覚を覚えた。胸が疼く。そうされていたいという気持ちを飲み込みながらその指から距離をとってベッドから降りようとすると、拒絶を目の当たりにした彼の目が丸くなり、それから表情が歪んだ。
「……に、逃げるなよ。さっきまで愛しあってたのに、そんな風にするな……」
 逃げてないよと口先だけで言った。彼の表情がますます歪み、今度は腕が伸びて、抱きしめられる。乱暴な力にゾクゾクした。ベッドから降りようとした私の体は簡単に彼の胸の中に引き戻される。
 彼の手が私の体に再び伸び、触れ始めようとするのを感じてもう止めてほしいと胸を押し返そうとするとそれ以上の力で強引に口づけられた。
 ベッドに体を沈められる。もう自分の体の感覚もよく分からなくなっていたけど、わざと痛いよと言うと彼の体がびくりと跳ねた。ごめんなさいと震える声で謝られて、私を抱きしめていた彼の腕の力が目に見えて抜ける。それでも離れるのは惜しいというように後ろから抱きしめられた。
 彼が私のこめかみに唇を寄せ、耳もとで囁く。
「あ、あ、あいしてる、って言葉で言ってくれたら、終わりにします。今日はもうしないから、ね、 言って……?」
 求められるまま愛してると掠れた声で言う。疲れたような寂しい響きを伴っていて、彼が息を詰めるのが分かった。私の代わりに沢山の感情が滲んでいる声で、俺も愛していますと彼が何度も何度も繰り返す。
 そんなに好きでいてくれるんだねと言うと私から彼に声をかけたのが嬉しかったのか、緊張で余計に彼の言葉が詰まる。彼の口から今まで以上の熱心さで語られる愛の言葉を最後まで聞き届けてからごめんねと言うと、彼が怒りと悲しみの入り混じった声を出した。
「……なんで謝るんですか。お、俺を好きにはならないから謝るんですか」
 首を微かに横に振る。だけどそれ以上は答えられなかった。
 私は彼を愛していて、私が口にする愛しているという言葉は本心のものだ。愛しているから彼を受け入れないでいる。受け入れさえしなければ彼は私を、私の愛を、求め続けてくれるから。そうしてずっと求め続けて、私だけを見ていてほしい。
 こんなことするような私には彼にこんな風に愛してもらうほどの価値がない。それを彼だけが知らないし認めようとはしないだろう。
「……そ、それでも、好きです。愛してます。俺には貴女だけ……貴女だけなんだよ……」
 さっきより悲しみの混じった声で彼が言う。彼の手が何かを探るように動き、私の手をとらえた。指を絡めて握りしめられる。
「握ってください。……お願いします」
 力の入らない手でそっと握る。それよりずっとずっと強い力で握りしめ返されながら体ももう一度きつく抱きしめられた。
 私よりずっと大きな体が縋りつかれることも、彼が私からの愛情を求め苦しんでいる様子を見せてくれることにも、私はどうしようもない幸せを感じる。
 彼は自分と地獄に堕ちてくれと言ったのに、一人きりで堕ちたような顔を見せたが、私も愛する人の愛情を際限なく求め続けずにはいられない同じ地獄にいた。それでも、例え地獄でも、彼がこうして私を愛してくれるから、私にとっては何よりも甘い幸せな場所なのだ。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -