影の仕事

此処は戦国の世。私が生まれ育ったのは平和な世。生前(ということにしておく)、駅のホームから突き落とされたと思ったら落ちてきたのは甲斐は上田、日本一の兵と呼ばれた真田幸村が治める地である。

右も左も分からない私を支えてくれたのは幸村と、だいぶ棘があったものの私を護ってくれた幸村の忍、猿飛佐助。

その他にも私にこの時代での常識や礼儀作法を教えてくれたり、時々私の話し相手になってくれた人は沢山いた。

それでも先の世から来た私を軽蔑する人はいるわけで、特に接触の多い女中さんにはあまり好かれてないような気がする。

全員が私を疎ましく思っているわけではないようだが、廊下ですれ違った時に挨拶しても無視されたり、私に聞こえるように悪口を言ったりされれば流石に気づく。

それでも佐助さんによる暴言よりは全然マシではあるが。


「奈月ちゃん、最近不便にしてることない?」

「佐助さんが私の部屋に入り浸ってることくらいですかね」

八つ時にお団子を持ってきた佐助さんがそう聞いてきたので軽く皮肉を言ってみると、彼は少しだけ苦笑した。今日は幸村は書類整理で忙しいそうだ。

「知ってるよ、女中さんに嫌がらせされてるでしょ」

横目で彼を見ると、ぞっとするような殺気を放っていた。初めて会ったあの日、私を本気で殺そうとした時と同じ顔をしていた。冷汗が背中を伝う。

「ねえ、奈月ちゃんはどうしたい?」

汗で手足が冷える。

彼は、何をするつもりなのか。何だか嫌な予感がして、考えるのも恐ろしくて、私は黙って首を横に振ることしかできなかった。


その次の日からひとり、またひとり女中さんが消えて行った。私を無視したあの人も、私に悪口を言った人も、もう私に嫌がらせをした人たちは皆消えて行った。

他の女中さんたちに聞いてみると、城下で賊に襲われて亡くなったとか実家に帰ったらしい等と言っているが、私はどうしても納得できなかった。

ただひとつだけ思い当たる事があるが、もう考えるのを止めた。奇妙だと思いながらも何処か安心しているという事は、彼のした事は私の事を結果的に護ったと言えるのか。

だから私は何も言わない。

影で誰が何をやろうとも。


「奈月を傷つける奴は誰であろうと許さない」


影はニタリと笑った。


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