05
ユースタス・キッドに拾われて1か月が経った。
暫く歩けなかったので、ベッドに横になりつつ本を読み漁る日々。
種類関係なく貪るように読んでたが、それなりの知識量が身に付いた。字も書けるようになったし、計算もできる。その結果が睡眠不足だが小さい事だと思う。
割と人とも会うようになって、ユースタス・キッドをユースタス屋と呼ぶようになった。ユースタス屋の側にいつもいる金髪はキラーというらしく「キラー屋だな」と言うと頭を撫でられたのも少し懐かしい。
そんな俺は、ユースタス屋に「トラファルガー・ロー」と名付けられた。
由来を聞いたら「直感」らしい。それからは屋敷にいる人間にトラファルガーと呼ばれる。
「ロー」
名前を呼ばれて顔を上げるとユースタス屋が居た。ユースタス屋だけは俺の事をローと呼ぶ。特別っぽくて嬉しかった。野良猫の時は嫌われてばかりだったから。
「ユースタス屋?どうした、改まって」
「んー・・・」
「ユースタス屋・・・?」
屋敷の中ではシャツにパンツというラフな服装しか見た事がないユースタス屋が、なんというか伯爵みたいな格好で俺の前に居る。背中には蝙蝠みたいな翼があるが。
「ローを連れてきて1か月だな」
「あ?あぁ、1か月だな」
「血を舐めさせて1か月だ」
ユースタス屋が何を言いたいのか分からなかった。顔に出ていたのか、苦笑しながら俺の頭を撫でるユースタス屋。くすぐったいけど気持ち良い。
「俺は煉獄を治めてる。キラーも俺の右腕だ、屋敷の奴らも俺の配下だ。でもローは?」
「・・・俺?」
「お前は人間界から連れてこられて、俺の血を舐めただけの猫だ。後ろ盾も何も煉獄にはない」
そのうち喰われても誰も気にしない、と冷酷に言う。
悔しいがその通りだ。
「でもそれは俺が赦さない」
顎に手を添えられ、グイっと上を向かされる。
一呼吸置いてしっかり目を合わされ反らせない。
「俺のもんになれ」
・・・何を言われたか分からなかった。
その間にユースタス屋の顔が近付く。
「全部俺に寄越せ。髪も目も血も・・・全部俺のもんになれ」
耳元で囁かれたと思ったら首に激痛が走った。
噛みつかれたと理解した頃に生温かい感触が胸元に伝う。
「俺はお前が・・・欲しい」
泣きそうになった。
不吉だと言われて石まで投げられて。そんな過去を顧みると、欲しいと言われて喜ばないはずがない。
「・・・俺で良いのか?黒猫なんて不吉だろ・・・」
「何言ってんだ?煉獄に居るんだ、不吉も何もねぇだろ」
あっさり言いきるユースタス屋は俺の血を舐めた。
くすぐったいような、ゾワゾワする初めての感覚に身をよじる。
「ふふ・・・てめぇみたいな主人、もっ・・・面白いな・・・うぁっ!」
胸元から首を舌が伝い、足りないとばかりに傷口を吸われて思わず悲鳴を上げた。
「覚悟はできたか?」
ふむ・・・こういう時は何て言おうか。あぁ・・・これが良いかもしれない。
「イエス・ユア・マジェスティ」
―煉獄の主に忠誠を。2011.10.31〜2011.11.04
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